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「やっぱり美神さんだな」

令子との話を終えた唐巣はその足で魔鈴の仮事務所となっている横島のアパートに向かい事情を話すが、申し訳なさそうな唐巣の表情とは対照的に横島と魔鈴の反応は普通だった


「すまないね。 本来ならば美神君が礼を言わねばならないくらいなのだが……」

ひたすら申し訳なさそうな唐巣は令子の代わりと言わんばかりに何度も謝るが、横島はいつものように笑っているだけである


「思ったよりもいい条件っすね」

謝る唐巣を励ますように予想よりもいい返事だと語る横島に、唐巣は更に複雑な感情を抱いてしまう

まあ横島ならば令子の事をよく知る故に無理難題を吹っかけてくると考えててもおかしくはないが、それにしても仮にも自分の弟子が普段どんな態度だったのだろうかと考えると胸が痛くなる気がした


「私ならば美神さんの提案で構いませんよ。 お見せするほどの実力ではないでしょうが……」

そんな横島と同じく魔鈴もまた、特に怒りも動揺もなく令子の提案を受け入れてしまう

令子からすれば最初にケンカを売ったのは形としては魔鈴になる訳だし、多少の無理難題ならば構わないと考えている

横島と魔鈴は令子に近付き過ぎてもダメだし、敵対し過ぎてもダメだと考えていたのだ


「しかし大丈夫かね? 資料によるとかなりの悪霊が集まってるようだが……」

「一億もの依頼は私個人では受けた経験はありませんが、それなりに修行も経験も積んでますのでなんとか大丈夫だと思います」

魔鈴はあっさりと引き受けるが唐巣は依頼が厳しいだけに心配そうである

しかし魔鈴としては未来で散々修行もしていたし実戦もある程度は経験して来たのだ

まあ横島と魔鈴の場合は除霊が副業なので、流石に一億もの依頼は経験がないが……

しかし今回の依頼と同じような規模の依頼は助っ人としてや、高額な依頼料が払えない客を相手に何度か経験があった


「分かった。 ではさっそく話をつけて来よう」

魔鈴が令子の提案を受け入れた事で、唐巣は再び令子の元へ話をつけに帰っていく



「やはり彼女は美神令子なのですね。 私は嫌われても当然ですが、それにしても彼女の対応は……」

唐巣が帰り横島と二人になった魔鈴はため息と共に本音を漏らす

自身は嫌われても当然だし魔鈴も令子が嫌いなのでそれでいいのだが、それにしても令子にとってはよく知らない他人であるはずの魔鈴に対してあれほど攻撃的になれる理由が分からない


「他人にナメられたるのが大嫌いな人だからな~。 それに自分の思い通りにならない事も嫌いなんだよ」

横島は令子に対して冷めた感情しかないが、魔鈴は実際あまり令子を知らないといった方が正しい

間接的に聞く話は多いが魔鈴自身が令子に関わった件など数えるほどしかないのだから


(まあ例え私がどんな態度に出ようが、忠夫さんを取った女ですから嫌われるのでしょうね)

今回の件はGS試験の時の魔鈴の行動が原因とも言えるが、仮に下手に出ても結局は嫌われると魔鈴自身は考えていた

実際それだけ令子の横島に対する愛情は根深いのだ

結局横島を令子から完全に引きはがすには、魔鈴が令子と仲が悪い方が都合がよかったのである


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