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春の山はまだ寒かった

氷室神社は山の麓より少しだけ上った場所にあるが、それでも雪が目立つのだからその寒さは東京とは別格である


「ごめんください。 私達は東京でGSをしてる者ですが、少しお話を伺いたいのですが……」

氷室神社に到着した二人は、さっそく神社の神主に話を聞かせてほしいと頼んでいた

この人物は未来でおキヌの義理の父だった人物である


(結界が働かんと言うことは、道士の人格は起動してないか? やはり封印の堰に異常が起きなければそのままか……)

魔鈴が神主と話をする中、横島はかつて未来で神社を守っていた結界が働かない理由を考えていた

現在封印の堰は稼動を停止したままであり、どうやらそれは道士が想定した異常には入らないようである

地震などが起きて封印の堰が破損などすれば道士の人格が起動するのだろうが、未来で本人も言っていたが第三者がおキヌを切り離すとは予想してなかったようだ


(まあ土地の神をロクに調べもしないで勝手に変えるのは美神さんくらいか……)

この件は道士の読みが甘かったとも言えるが、どちらかと言えば令子の非常識さの方が問題だった

いかに田舎とはいえロクに調べもしないままに個人の都合で勝手に神様を取り替えるなど、三百年前では絶対に考えられないことである

まあこれに関しては現代のGSでも非常識な行動であり、唐巣や魔鈴などの慎重な者ならば事前に下調べはするはずなのだ

令子がいかなる理由で調べもせずに山の神を交代させのかは横島も知らないが、やはり迂闊だとしかいいようがない

ただ実際問題として考えると田舎の山の神や土地神などが、何かの重要な鍵を握る存在だという例は稀でありほとんどない

全ては令子の悪運が引き寄せた問題だとも言えるが、横島としては正直複雑な気分だった



さて調査に来たと説明する魔鈴に神主は神社建立の由来から説明して神社に伝わる古文書を見せてくれたが、内容は横島が未来で聞いた通りであり魔鈴も先程歴史資料館で聞いた内容と同じである


「この近くで何かあったのですか?」

田舎には珍しいGSがわざわざ調査に来た事実に神主は不安そうな表情を浮かべていた

そんな神主に対して魔鈴はまだ確証はないと言いつつも、おキヌの存在と一年ほど前に令子がおキヌを解き放った事情を説明する


「まさか、その巫女の幽霊と言うのは……」

「確証はありませんし、あくまで私の推測です。 しかし些か妙な事例なので調査してます」

あくまでも可能性の段階で調査してると告げる魔鈴だが、神主の表情は不安そうだった


「もし何か異変が起きたらすぐに連絡を下さい。 近いうちにまた調査に来ますが、三百年前に封印された地霊が復活してる可能性もゼロではないので……」

不安を隠せない神主に魔鈴は何かあれば連絡が欲しいと告げて氷室神社を後にしていく

これで死津喪比女に関わる準備は整ったことになる


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