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「凄い姫だったからな。 しかもおキヌちゃんとは親友だったらしいし」

かつて見た三百年前の様子を思い出す横島だったが、あの姫ならば一生自分を責めて責任を感じて行きたのではと思う


「氷室神社とかは間違いなくおキヌちゃんのためだな。 おキヌちゃんが生き返った未来で幸せになれるように、出来ることは何でもしたんだろうさ」

それは横島には珍しく強い確信を持った言葉だった

確かに領民の為でもあったのだろうが、遠い未来でおキヌに何があっても困らぬようにと神社と神社を守る地域を作り上げたのだと横島は確信している


「忠夫さん……」

「ちょっとは気持ちが分かるかな。 人間ならば残された者もやがて残していく立場になる。 数百年後の未来がいかに不安かは分かる気がするよ」

それはかつて横島自身も人であった時は散々考えたことだった

残される者の苦しみを理解するが故に、残していく者が心配になる

遠い未来で大切な人がどう生きるかと考えた時、姫は人知れず涙を流しただろうと思うのだ


「現に氷室神社は三百年後の今も残ってますからね」

「それだけ想いは強かったのかもな」

未来では知らなかった姫と道士のその後に、横島と魔鈴は感慨深いものを感じつつ氷室神社に向かう

山の麓まではバスがあるが一日に何本もなく、少し遠いが二人は歩いて向かうことになる


「空気が美味しいですね」

地元の街をしばらく歩くと山の麓からはすでに無舗装の山道になっていた

元々地元の町も標高が高い高地にあり、山々に囲まれた盆地のような場所だったのだ


「東京は便利だけど空気が悪いからな~」

一応仕事で来てるのだが見渡す限りの美しい自然と美味しい空気に、二人はちょっとしたハイキング気分だった

この景色だけを見てると、まさか地中に死津喪比女が居るなどとは思えない


「山の上に行けば行くほど木々の生命力が弱いですね。 やはり地脈の力が山々に行き渡ってない」

人骨温泉ホテルまで後少しとなった頃、魔鈴は道路際の木々を霊視して少し悲しそうに呟く

一見すると普通の自然の木々だが、死津喪比女が地脈の力を吸い上げてる影響は現れ始めていた

よく見ると青々と生い茂る葉っぱや草なども僅かに元気がなく、少し栄養不足のようにも見える


「証拠としてはもう十分だな」

「はい、後は氷室神社で事情を聞き調査をすればすぐに動けます」

予定通りおキヌへの疑問から死津喪比女に繋がる確証を得た横島と魔鈴は、現時点でも限りなく黒に近い灰色の状況を固めるべく氷室神社へむかう

この結果令子がどう動くかは知らないが、これで横島と魔鈴がこの事件に介入する大義名分がそろうことになる


「そういやあ氷室神社には大きな露天風呂があるんだよな~」

「……流石に氷室神社で露天風呂を借りるのは無理ですよ。 今夜は人骨温泉ホテルに予約してますから、夜まで待って下さい」

死津喪比女のことに一瞬緊張感が高まった二人だが、その後は再びいつもの調子に戻る

せっかく温泉に来たのだから一緒に入りたいと言いたげな横島に、魔鈴は少し顔を赤らめ夜まで待つように告げていた

今晩は人骨温泉ホテルに一泊する予定だったのである
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