変わりゆく日々

そのまま路上でお見合いをしてる訳にもいかないため、魔鈴はおキヌをアパートに連れて行く

そんな中で横島の標札の隣に魔鈴心霊相談所の名前を見たおキヌは、僅かに表情を曇らせる


「突然の帰国で余裕がなかったので、ここを事務所にさせて貰ってるんですよ」

魔鈴に案内されるままに室内に入るおキヌだったが、以前とは見違えたように綺麗になった部屋には何処か淋しさを感じてしまう


(今回は本当に戻って来ないんですね……)

おキヌは今この瞬間まで、もしかしたら横島が再び戻って来るかもしれないと僅かに期待を抱いていたのだ

無論横島に幸せになって欲しいとの気持ちは変わらないが、反面で美神事務所に戻って欲しいとの期待も大きかった

以前エミの引き抜きの時は平然としていた令子が少なからずショックを受けてる現状を知るだけに、おキヌは冷静さを保ちつつも再び元の事務所に戻る期待を持っていたのである


(横島さんの彼女かぁ……)

そのままおキヌは魔鈴に視線を移すが、ようやく横島に彼女が出来たことを喜ばなければと思いはするものの、心は複雑な気持ちが支配する
「そういえばおキヌちゃんは三百年前の生まれだとか…… よろしければ、少しお話を聞かせて頂けませんか?」

「えっ!? ……はい」

微妙に重苦しい空気が部屋を支配する中、突然魔鈴に身の上話を聞かれたおキヌは素直に自分の覚えてることを語っていく

まあ話の内容は、やはり山の神になるはずが才能が無くてなれなかったとのことなのだが……


「大変だったんですね」

おキヌは簡単に話すが、三百年の孤独は魔鈴でさえ想像も出来ないことだった


(いつ終わるとも知れない時の流れを、独りでただ待つしか出来ないなんて……)

人の枠を越えた現在の魔鈴だが、それでも独りで三百年など考えたくもない

その苦しみを理解出来るとすれば、それはドクターカオス以外には存在しないだろうとも思うのだ



「ただいま~、っておキヌちゃん!? 遊びに来たんか?」

おキヌの昔話が終わった頃、学校から横島が帰宅して来る

横島はおキヌが居ることに僅かに驚くが、内心ではその理由を察していた


「いえ……あの……はい」

突然横島が現れたことに戸惑うおキヌだが、結局何も言えずに頷くしか出来ない

仮に横島が苦労してるならば美神事務所に戻って来るように説得も出来るが、今の横島は苦労どころか以前よりも明らかに幸せそうなのだから


「横島さん、頑張ってるんですね……」

「うん、まあな。 本当はGSなんて怖くて嫌なんだけど、逃げる訳にいかないからさ」

以前よりも幸せそうで頑張って見える横島が、おキヌには眩しく見えていた

誰よりも横島を見て来たおキヌには、横島が以前と違うことを改めて痛感している


「生きるって素晴らしいことです。 だから、精一杯頑張って下さい!」

ショックを受けている心を隠すように、おキヌは横島の手を握り精一杯の笑顔で励ましていた

それは三百年の孤独に耐え抜いたおキヌの心の強さを表すような笑顔だった


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