怯える痴漢幽霊を前に雪之丞と横島は淡々とどうするのかと話を進める

悪霊化してないし横島としては説得で済ませたいのだが、相手が改心するかは怪しいとこだった


「ヒィィ……」

「残念ですが説得は不可能ですね」

雪之丞の霊力に怯えた痴漢幽霊は慌てて空に逃げ出していくが、魔鈴としてはここで逃がす訳にはいかない


「次に生まれる時には、人の痛みや苦しみを理解出来る存在になってください」

悲しそうにポツリと呟いた魔鈴は抱きしめていた女性が一人でも大丈夫なのを確認した後に、軽く空へとジャンプする

上空に必死に逃げる痴漢幽霊に魔鈴は一瞬で追い付き、手に持つほうきを使い浄化の魔法で痴漢幽霊を成仏させてしまう



「スゲーな……」

軽くジャンプしただけで空へ舞い上がった魔鈴のあまりに可憐な姿に、雪之丞はポカーンと見つめていた

その動きとスピードも驚きだったのだが、何より浄化して光となり天に還る幽霊にも驚き見つめている



「今回のように交渉から入る場合は、力を示すタイミングがポイントになります。　突然大きな力を見せると相手は逃げてしまいますので、注意が必要ですよ」

痴漢幽霊を除霊した横島達は女性を家まで送った後に帰路に着くが、魔鈴は今回の除霊での問題点を雪之丞に告げる

交渉から入る場合は今回の雪之丞のように最初から力を見せると、本当の意味での交渉が不可能になるのだ

仮に相手が交渉に乗ったとしても、きちんと注意しないと嘘をついて逃げようとする者も多い

まあこの辺りの判断や交渉は一流のプロでも難しいため経験を積んでいくしかないが、元々の性格もあり雪之丞には難しいものだった


「改心したら逃がすつもりだったのか？」

「相手にもよりますが、今回は逃がすのは難しいですね。　話し合いの上で成仏してもらうのが理想です。　すでに被害者は多いですし、改心しただけで逃がすのは納得して頂けないですから」

魔鈴の言葉に雪之丞はどうすればよかったのか尋ねるが、今回は同意の上での成仏が理想だったのだ

幽霊側に批がないならば逃がす事も可能なのだが、常習性の高い痴漢幽霊を逃がすのは難しい

しかもあの手の欲望に身を委ねる幽霊は悪霊化する可能性も高かった


「一般のＧＳですと最初から強制的に除霊する人も多いのですが、基本は話し合いによる解決が理想なんですよ。　相手は魂のある存在なのですから……」

魔鈴の価値観と除霊方針は、最近のＧＳとしてはあまり一般的ではなく古いものだった

しかし未来で魔鈴の想いを継いだのは他ならぬ雪之丞なのだ


（時間はかかるかもしれませんが、貴方なら最高のＧＳになれますよ）

半信半疑というか魔鈴の価値観を聞いてなんとか理解しようとしている雪之丞の姿を見て、魔鈴は思わず未来と同様の期待をしてしまう自分に気付く

横島よりも魔鈴よりも雪之丞はＧＳに向いていると魔鈴は思っている

そのやり方は時に異端視されるかもしれないが、魔鈴が思い描く理想のＧＳに最も近いものだったのだから……