香港編

その頃魔鈴と雪之丞は唐巣の教会を訪れていたが、予期せぬ騒動に巻き込まれていた

二人は除霊のついでに近くだった唐巣の教会に寄っていたのだが、突然泣きそうな表情で教会に冥子が駆け込んで来たのである


「追われてるの~ 助けて~」

目に涙を浮かべ何かに怯えるような冥子に唐巣は何事かと緊張感を持って話を聞こうとするが、そこに現れたのは母親である六道冥菜だった

どうやら冥子は六道家に代々伝わる他の式神使いとの果たし合いが嫌で逃げていたらしい

奇しくも令子は香港でありエミは不在だったらしく、冥子は頼る相手が居なくて唐巣の教会に逃げて来たらしいが当然母親にはそんな行動がお見通しだったようだ


「お客様がいらしたのにごめんなさいね~。 唐巣君」

「いえ、私はいいのですが……。 式神使いの果たし合いとは初耳ですね」

「昔からのしきたりで互いの式神を賭けた果たし合いがあるのよ~ 相手は鬼道君なんだけど……、私はもういい加減止めたいのよね~」

この一件はどうやら鬼道政樹との式神を賭けた果たし合いの一件らしいが、唐巣は果たし合いのしきたりを知らないらしく冥菜の説明を味深げに聞いている

しかし冥菜の口から鬼道の名を聞くと僅かに表情が強張ってしまう

それというのも鬼道家は、正直あまり評判のよくない家だったのだ

鬼道政樹の父はGS免許を取れずに事業に手を出したが失敗して以来、何かと黒い噂が絶えない人物だった

まあ基本的に犯罪らしい犯罪に手を染めるまでは行かずに、グレーゾーンの怪しげなことをしているとの噂が多くある典型的な小悪党なようである


「さあ、帰るわよ~」

一通り説明を終えると冥菜は嫌がる冥子を連れて帰っていくが、そこで未来の令子のように見学に行ったりして六道家に関わるほど唐巣も魔鈴も愚かではなかった

多少冥子が可哀相だとは思うが、それ以上に六道家には関わりたくはない


(そういえば忠夫さんが昔言っていたような……)

そんな訳で冥菜に目を付けられないように大人しくしていた魔鈴だったが、鬼道という名前はもちろん知っているしかなり以前にこの話を聞いたような気がしていた

ただ魔鈴が聞いたのは冥子と鬼道が勝負をして酷い目にあったくらいしか聞いた記憶がないため、正直よく分からないようだ


「あのおばさんは誰だったんだ?」

「六道家の現当主である六道冥菜さんですよ。 雪之丞さんも名前くらいはご存知では?」

六道親子が居なくなりなんとなく空気を読んで無言だった雪之丞は魔鈴に説明を求めるが、その正体には流石に驚きを隠せない

日本オカルト業界の影の首領との異名を持ち、その影響力は時の政府にも影響を与えるとも言われるほどの人物だが、冥菜に関する様々な噂の半分は根も葉も無いただの噂だったりする

無論噂が立つほどの影響力があるのは事実なのだが、日本で唯一霊能者の育成を近代化した六道女学院霊能科を代表する様々な行動は評価が高いことも事実だった

まあ古い既得権を持つ者達には当然嫌われてはいるが……


何はともあれ予期せぬ六道冥菜との初対面が、静かに終わったことに魔鈴は人知れずホッとしていた



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