香港編

一方午後の授業も普通に受けた横島は帰り支度をしていた

部活に行く者や委員会などで仕事がある者なども多く、すぐに帰る生徒はあまり多くはない

最近までロクに学校に来てなかった横島はクラス外にはほとんど知り合いも居ないし、用事もないのですぐに帰れるが


(ピートの奴は相変わらずか……)

この日タイガーは仕事で早退しており、ピートは相談に乗ってほしいという女子の話を聞く為にすでに居なかった

横島は密かに苦笑いを浮かべるが、ピートが受ける相談とはもちろんオカルト絡みである

GS免許を持つピートの元には、特定の女子から心霊関係の相談に乗ってほしいという話が絶えないのだ

無論相談内容はあってないような物であり、ピートに近付こうとする女子が口実として相談と称してピートを誘っていたのである


(立場上断れんのがつらいとこなんだろうな)

正直ピートも相談内容がないことは理解してるが、立場上断れないことを横島は理解していた

ピート自身がいい人なのはもちろんだが、実際いい人で無ければ人間社会で生きて行けないという現実がある

昔から必要以上にピートが横島や周りに気を使っていた理由もそこにあるのだ

普通の人間ならば多少ワガママや性格が悪くても問題ないが、バンパイアハーフのピートがワガママや性格が悪いと差別や排斥の原因になるのは明らかだった

仮に嘘の相談でもピートは気付かぬフリをして親身に聞かねば、生きて行けないのだから横島も複雑な心境になる

単純にモテるのは羨ましいが、同時に本音も言えずにいい人を演じ続けねばならない状況には同情もしてしまう


「あら、偶然ね。 横島君」

そのまま一人で帰ろうと玄関に向かう横島だったが、途中で思わぬ人物に会っていた


「偶然っすね。 奥田先輩」

廊下の壁に寄り掛かるようにして一人外を見つめていたのは、横島の中学時代を知る奥田遥である


「横島君部活に入らないの? 運動得意だったじゃない」

「貧乏人にそんな余裕ないっすよ。 帰って仕事しないと」

遥は何故か横島を見つけると一緒に歩きだし会話を始めた

それは特別な会話ではないが、昔を知る遥に横島は少し警戒を強める

彼女は聡明な人であり高校進学時ももっといい高校に入れるのに、何故この高校にしたのか疑問視する声が上がったほどの人物なのだ


「みんな貴方が昔からGSを目指して影で努力してたって言ってるわよ。 本当なのかしら?」

「俺がそんなタイプじゃないの先輩知ってるでしょう? 最近霊能力に目覚めたんっすよ」

「横島君変わったわね。 昔の貴方はもっと輝いてた気がするわ」

そんな横島と遥が一緒に歩く姿に、それを目撃する生徒達は驚きや信じられないと言わんばかりの表情を見せる

しかし遥はそんな周囲の表情や視線を全く気にしないまま会話を続けた

どこか探るような遥の会話に横島は密かに緊張感を増していたが……



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