香港編

(確かに実戦ならば僕は負けていた)

その後魔鈴宅を後にしたピートは、雪之丞と横島との対戦の結果を素直に見直しといた

少し納得がいかない部分もない訳ではないが、それで全てを判断するほど若くはない

それに横島が性格上普通に戦うと思ってしまった自分が甘かったのだとピート自身も自覚している


(しかし、ああいうとこは美神さん譲りですね)

自分に有利な状況に持ち込むという意味では令子に敵う者はそうは居ない

ピートから見れば横島は紛れもなく令子の戦い方を受け継いでるように見えた


「横島さん、貴方は一体何があったんですか?」

ここまでは特別違和感もなく納得がいくが、問題は横島の霊力の使い方が最近霊力を開花したにしては異常なほど上手いことだった

基本的な霊力コントロールを心眼がしてるとも考えられるが、戦い方と霊力の使い方がピッタリと一致しているのは少なからず横島の実力があることになる

何より魔法のほうきのコントロールがピートの予想を遥かに越えていたことは否定のしようがない

横島には何か隠された変化があるとピートは直感的に気付くが、それを尋ねるのは性格上出来るはずがなかった


(何かよくないことが起きなければいいけど……)

雪之丞と横島との対戦で自分の力不足を痛感するピートだが、その根底には人と吸血鬼のハーフである自身へのコンプレックスと迷いがあることにまだ気付いてない

この時代でもGS試験で吸血鬼の能力も正しく使えばいいのだと悟ったピートだが、本当に反面では吸血鬼が悪なのかとの根本的な疑問も消えてない

父親と吸血鬼へのコンプレックスや人への憧れや恐怖など、心が定まらぬことがピートの実力を発揮出来ない最大の理由だった

それを乗り越えない限り横島には勝てないのだが、ピートがそれに気付くには今しばらく時間が必要なようである



「なんであんな戦い方をしたんだ?」

「ピートの潜在能力と積み重ねた経験はあんなもんじゃないんだよ。 それを発揮出来ないのは精神的な問題だからな。 乗り越えるきっかけにでもなればと思ったんだけど、まだ難しそうだな」

一方横島は先程の戦いに疑問を感じる雪之丞に説明していたが、思った以上に上手く行かなかったことで苦笑いを浮かべていた

言葉で伝えてもきっとピートの心は晴れないだろうし伝わらないと理解してるからこそあんな戦いをしたのだが、結果はピートを迷わせただけかもしれない

ピートの悩みや苦しみの理由を知る横島は、結局知っていても何も出来ない無力さを痛感しただけだった


「精神的な問題ねぇ」

「ヨーロッパじゃ吸血鬼は今でも人間の敵だからな。 ハーフのあいつがどれだけ苦労したかは俺やお前には分からんことなんだと思う」

横島の言葉に雪之丞は半信半疑な様子だったが、その苦悩を横島は理解してるのではと感じていた

自分と横島では何もかもが違い過ぎると理解してる雪之丞は、これから十年の間に何が起こるのかと考えると少し恐ろしくなる気がした



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