母からの伝言

それから数日が過ぎておキヌは目を覚ましてから三日目になるこの日、いよいよ病院を退院することになった

昨日からは義理の母と姉の二人が東京に来ており、おキヌと一緒の時間を過ごして家族としての絆を形成しつつある

この三日のおキヌの様子だが記憶が思い出せず不安になるよりは、両親や令子のことを全く思い出せないことを申し訳なく感じているようだった

目を覚ましてからはカオスが一度見舞いと称して会ったが、おキヌの様子は概ね歴史通りだろうとの結論である

氷室一家は未来と同じくおキヌを本当の家族のように扱い、おキヌに下手な違和感などを与えないように注意をしていた

未来とは少し違う形になり一緒に暮らすことにはならなかったが、おキヌを幸せにすることで先祖の想いを叶えたいとの気持ちが強いようである

これは氷室父が最近になって思い出したことだが、氷室父は祖父から幼い頃によく不思議なお伽話を聞かされていたらしい

そのお伽話はあまりに幼い頃だった為に断片的にしか覚えてないが、話にはお姫様と巫女が登場する話だった

内容はとても悲しいお話だったことしか覚えてないが、今になってみればあのお伽話はおキヌのことだったのだろうと令子に話している

そしておキヌを養女として幸せにすることを先祖も望んでるだろうと考えているようだった


「私ここで暮らしてたんだ……」

病院を後にして令子と氷室一家と一緒に美神事務所に戻るが、おキヌは何か言葉に出来ない感情が少し込み上げてくる程度で混乱もない


「記憶はそのうち思い出せるわよ。 しばらくはゆっくり休んでればいいわ」

事務所を見たおキヌが混乱なく受け入れたことに令子は内心ホッとしつつも、今後記憶の混乱などが起きないか気になっていた

ただ美神事務所は人工幽霊が管理してる建物であり、おキヌに変化があればすぐに人工幽霊が令子に伝える手筈になっている

現状ではおキヌの環境としては申し分がない配慮と体制を整えていた



一方横島はまだ目が覚めたおキヌに会って居なかった

おキヌの記憶や精神的な混乱を避ける為に、落ち着くまでは横島は会わない方がいいと唐巣と令子が考えてるためである

正直おキヌの横島への想いを知る者ならば、おキヌに横島をいつ会わせるかは悩むところだった

未来を知る魔鈴やカオスですら明確な答えは持ち合わせてなく判断が難しい

仮に横島に会って全部記憶が戻るならいいが、中途半端に記憶が戻りかけると精神的に不安定になる可能性があった

結局現状ではおキヌの精神的な安定を最優先にせざるおえないと令子は結論づけたようである


「おキヌちゃんの件もアレだけど、俺は次のことを考えると気が重いな」

おキヌが美神事務所に戻った頃、横島は相変わらず一人で学校の屋上に居た

一応立入禁止な場所なのだが、人が来ない場所なだけに横島は昼休みなどよく来ていたのだ


「ある意味おぬしの天敵だからな。 同じ人間なのが皮肉としか言えんが」

唐巣を経由しておキヌの退院が今日だと聞いた横島は今後のおキヌの平穏な生活を願いつつも、頭の中は次に起きる可能性が高い事件に向かっていた

横島の人生において天敵と言える者が何人か居るが、ある意味一番タチが悪い相手だろうと心眼も言い切る

できるならば一生会いたくない相手が過去から来るのだから……



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