スリーピング・ビューティー!!

「エミまだなの!」

「今やるわよ。 オタクは黙って見てるワケ」

道士のやり方や考えに苛立ちを隠せない令子は八つ当たり気味にエミを急かすが、エミは淡々とした様子で始めようとする


(二度と使う事がないと思ったんだけどね……)

懐かしい魔法陣に立ったエミは、昔を思い出し少し複雑な気持ちが込み上げて来ていた

自身の過去と一緒に封印していた殺すの為の呪術

それは殺し屋を辞めてからは使うのを辞めたモノだった

これさえ使えば相手が令子だろうと勝てる自信はあったが、それでも決して使わなかったほど強力な呪術なのだ


「よく見ておくといいワケ。 おたくの三百年の呪縛がようやく溶けるわ」

「エミさん……」

準備が整ったエミはおキヌに視線を向けると一言だけ告げて呪術を開始する

それは令子や横島やおキヌが知るエミではなかった

かつて殺し屋と呼ばれていたエミだった事に、おキヌ達は気付いてない


「エミ君……」

そしてエミの過去を知り心の葛藤を見抜いていた唐巣は、その複雑な心中を思うとかける言葉すら浮かばなかった

人を守る道を選んだが故に再び命を奪う呪術を使うことになったエミの複雑な心境は本人にしか分からないだろう



おキヌに一言かけたエミは先程魔鈴によって切り刻まれた死津喪比女の一部を等身大の人型をした人形に埋め込むと、静かに呪文を唱え始める

かつてのように契約した悪魔が居ないエミは他から闇の力を借りて来なければならないが、それは非常に危険なものだった

一歩間違えればエミが闇の力に取り込まれたり、呪詛返しを喰らえばエミが死んでしまうほど危険な呪術なのだ

しかしそれでもエミはこの呪術を選んでいた

これはエミが用意して来た中でも最大級に危険であり、本来は他人に見せれるような呪術ではない

そんなエミをここまで動かしたのは他ならぬおキヌである

命を捨てて人々を助け魂さえも捨てて人々を守ろうとするおキヌに、エミは密かに心を動かされていたのだから


「すごい……」

一方儀式が進むにつれて呪文と共にエミに集まる闇の力に、魔鈴は驚きの表情で見入っていた

魔鈴もまたカオスと危険な魔法を開発したりしたが、エミの呪術は魔鈴の予想を遥かに上回っている


「我ガ敵ハ滅ブベシ!!」

そして呪文が終わったエミは、集まった闇の力をナイフに込めて人型の人形の中心部に深く突き刺す

エミの最上級の呪いはナイフを通して人型に送り込まれ、そしてそれは死津喪比女へと降り懸かる



「グァァァッーー!!!」

山々には幾百もの死津喪比女の断末魔が響き渡っていた

氷室神社を取り囲む数百にものぼる死津喪比女の花や葉虫が、一斉に断末魔を上げたのだから

そのあまりの光景に令子ですら言葉を失っている

本気を出したエミの呪術の恐ろしさは確実に令子の考えてた以上だったのだから……



「終わったわ」

先程まで氷室神社を包んでいた妖気や殺気が消えうせ、氷室神社はいつもの静寂に包まれていた

無表情で呪術の終了を告げるエミに令子はやはり言葉が出て来ない


37/57ページ
スキ