「反魂の術……」

道士の仮人格が見せた過去は、おキヌが自ら暗い闇のような水の中に身を投げたことで終わっていた

その過程で道士はおキヌは全て終われば生き返れると語るが、令子を始め魔鈴やエミなどの表情は険しい


「おたくどう思う？」

「机上の空論と言うべきか、やらないよりはマシだと言うべきか悩むレベルだと思います」

いつの間にか準備をしていたエミでさえ手を止めて過去を見ていたのだが、反魂の術に関しては正直無理だと感じてるようだった

そんなエミに意見を求められた魔鈴は、険しい表情で普通に考えれば無理だと言い切る

まあ僅かな可能性に賭けた道士の努力は魔鈴もエミも理解しているが、理論だけで術が成功するなら誰も苦労はしない


（未来に希望を繋ぐしかなかったのでしょうけど、あれで成功する可能性は……）

恐らく道士は未来の人々に希望を託したのだろうが、ひいき目をなしにして反魂の術を判断すると成功確率はかなり低いと魔鈴は見ていた

未来の世界においていかに偶然と幸運が重なっておキヌが生き返ったのか、改めて理解した魔鈴はそのあまりの運の良さに令子の強さの真髄を見た気がする


「反魂の話は死津喪比女を退治してからでいいわ」

「退治と言うがどうするつもりだ？　奴はすでに他の地脈にも根を伸ばしている。　最早直接攻撃するしか……」

「あんたまさか、おキヌちゃんの霊体を直接武器にするつもりだったわね！？」

一方道士の仮人格と話していた令子は、道士の最終手段を理解してブチ切れるのを抑えるのがやっとな様子だった


「馬鹿な……　そんなことをしたら霊体が消滅する！　霊体の消滅は即ち魂の消滅だぞ！！」

霊体を犠牲にした特攻になんとか落ち着こうとする令子に代わり、なんと唐巣が声を荒げて道士に詰め寄っていく

日頃温厚な唐巣が突然怒りの表情になった事実にはピートやタイガーのみならず、令子やエミですら驚き毒気を抜かれたようになってしまう


（根は熱い人なんだよな……）

唯一驚いてない横島と魔鈴は未来で十年近く唐巣とは親交があるのだが、お人よしな見た目と性格に反して根が熱い人間なのを二人はよく理解している

結構長い付き合いだったが、唐巣の根本は未来でも変わらなかったらしい


「奴は地中深くに潜んでいるんだぞ。　位置を突き止めるのも困難だ。　地脈で増幅させた霊体を武器にする以外に手があるとでも言うのか！？」

「煩い！　あんたは黙って見てなさい！！　私達には私達のやり方があるのよ」

他に方法がないと言い切り仕方ないと言わんばかりの道士に、令子は半ばキレたように相手をするのも馬鹿馬鹿しいと話を打ち切ってしまう


「美神さん……」

「おキヌちゃん、すぐ終わらせるわ」

怒りの唐巣と令子におキヌは驚きと戸惑いの表情を見せるが、令子はいつもの笑顔をみせてすぐに終わらせると自信ありげに告げていた

それは横島が辞めてから令子が失っていた笑顔である

どこまでも強くそして気高い令子の姿に、おキヌは涙を浮かべながらもしっかりと頷いていた