その頃東京の美神事務所で留守番をしていたおキヌは、突然何かの力により見知らぬ場所に召喚されて戸惑っていた

太陽の光も届かぬ漆黒の闇はおキヌに未知への恐怖を与えていく


「久しぶりだな。　おキヌ」

見知らぬ声におキヌは怯えた表情を見せるが、すぐにほのかな光が辺りを照らし始めてそこが洞窟のような場所だと悟る

目の前にはしめ繩が巻かれた大きな球体の何かがあり、そこから微かな霊的な力をおキヌは感じていた


「私を覚えてないか……　無理もないな。　済まないが、少し昔のことを思い出して貰おう」

おキヌの前に現れたのは封印の堰を作った道士の仮人格である

何もかも忘れてしまったおキヌに、再び過去を思い出させることに道士の仮人格は罪悪感を感じるが他に方法はない

道士の仮人格は静かにおキヌに過去の出来事を見せていく



一方おキヌが呼び戻された影響は横島達の方にもすぐに現れていた

魔鈴の力を見極め体力や霊力を消耗させようと散発的に襲って来ていた死津喪比女が、突然姿を現さなくなったのだ


「どうやらおキヌ殿が呼び戻されたらしい。　地脈の流れが一部止まった」

死津喪比女を警戒していた横島達は姿を現さなくなったことに訝しげな様子だったが、心眼がおキヌが戻された事実を告げると表情が険しくなる

もちろん横島達はおキヌが戻される可能性は考慮していたが、出来ることならばおキヌが戻される前に終わらせたかった


「早く氷室神社に行かないと大変なことに……　霊体による攻撃だけは阻止しなくては」

おキヌが封印の堰に呼び戻された事実に魔鈴は焦りを感じてほうきのスピードを上げる

時代が違えば価値観も違うため、道士の仮人格は死津喪比女を倒す為ならば迷わず再びおキヌを犠牲にするだろう

現在死津喪比女の本体は再び封印に捕われたが、その根はすでに他の地脈にも伸びておりおキヌを戻しても完全に封印することは不可能なのだ

未来は令子が居たために攻撃まで時間があったが、誰も止めなければエネルギーが貯まり次第おキヌは犠牲になってしまう

本来ならば横島達は氷室神社とは別の場所に死津喪比女を誘い出して、そのまま一撃で終わらせるつもりだった

卑怯にも感じる手段だが、それが最善の手段だったのだから


そして車で移動していた令子達は、横島達が死津喪比女を引き付けていたこともありようやく氷室神社に到着していた


「どうやら封印の場所を探してる暇はないのかもしれないね」

「元々封印で済ますつもりなんてないわ。　エミ、早く準備して！」

当初の予定では封印の場所を調べて情報を集める予定だったが、最早そんな時間はない

魔鈴達がやられる前に死津喪比女を倒さなければ、勝ち目がないのは明らかだった

令子達は魔鈴がどんな方法で死津喪比女を倒そうとしていたかは知らないが、現状では魔鈴達は死津喪比女の相手で精一杯に見える

魔鈴にどんな奥の手があるのかは知らないが、死津喪比女の注意が魔鈴に集まってる今がチャンスなのだ