新しい生活

その日魔鈴達が自宅に戻ったのは、1時過ぎである

タマモとシロが用意してくれた夜食を食べつつ、横島は前々から気になっていた事を二人に聞いていた


「そう言えば、お前ら彼女どうした? あの後ちゃんとフォローしたか?」

卒業パーティーで騒ぎを起こして以来、雪之丞の口からかおりの名前が出た事は無い

不器用な雪之丞やタイガーがあの後どうなったのか心配していたのだ


「別に俺からフォローする必要は無いだろう。 知りたかった真実を知ったんだしな。 後はあいつの問題だ」

淡々と答える雪之丞は、あっさりと言うか興味が無いようにも見える

それが本心かどうかはわからないが、以前と違うのは確かだった


「いや、でもな…」

あまりにあっさりした雪之丞の答えに、逆に横島がうろたえてしまう

恋人が悩む時に突き放すという選択肢は、横島には無い

そもそも横島と雪之丞では恋人の関係や考え方がまるで違うのだから、横島はどう話していいかわからなかった


「元々あいつとはそんなに頻繁に連絡とってる訳じゃねえ。 俺は東京に居ないことも多かったしな。 あいつから連絡が無い以上、俺からあの話をすることはしねえよ」

雪之丞の話を聞き横島は恋人に対する価値観がまるで違うことに気付くが、どう自分の考えを伝えたらいいのか悩んでしまう


「なんか、冷たいでござるな…」

同じく雪之丞の答えに戸惑いを感じていたのはシロである

元々人狼族は家族や仲間の繋がりが人間よりもずっと強いのだ、従って恋人も人間とは感覚が違うのだろう

それにシロが知る人間の恋愛は横島達だけな為、一般的人間の恋愛を理解してないようだ


「横島と魔鈴さんやルシオラとは違うからな。 俺も上手く言えねえけど恋人がみんな横島達みたいだったら、世界から離婚や別れなんて無くなるさ。 俺とかおりは関係が薄っぺらいんだよ」

雪之丞の言葉を真剣に聞くシロだが、やはり理解出来ない

普段の雪之丞はシロにとって、いい兄貴分のような人間なので余計にわからないのだろう


「人間なんてそんなもんよ。 みんなが人狼みたいな絆があると思わない方がいいわ。 横島達が特別なの」

シロをフォローするタマモの言葉は別の意味で重かった

横島や魔鈴の影響で個々の人間を恨む事はしなくなったタマモだったが、人間全体を好きかと聞かれたら嫌いだろう

前世での長い因縁や恨みは、簡単には消える訳が無い


「タマモ…、お前…」

そんなタマモの複雑な表情に、横島と魔鈴は心を痛める


「もちろん、人間も個々にはいい人もたくさん居るのはわかってるわ。 でも、人間社会を信用しろと言われても私は信じない」

フォローしつつ強い言葉で言い切るタマモの複雑な気持ちに、横島は何故か共感するものを感じた

アシュタロス戦やその後の様々な経験で、横島もまた無自覚なうちに人間に対して不信や苛立ちを募らせている

魔鈴や雪之丞など身近に信頼出来る存在が居るため表立っては無いが、横島の心にはかなり人間不信があった


(これは、私の役目ですね)

タマモとタマモの言葉に何故か納得している横島を見て、魔鈴は二人の心の傷を癒すのが自分の使命だと思う

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