それからどれだけ時が過ぎただろうか…

おキヌが落ち着いた頃、養父は静かに口を開く


「おキヌ、来年は高校卒業だな。　卒業後はやはりＧＳになるのか？」

「私は……」

養父の問い掛けにおキヌは答えられなかった

令子と共にＧＳをしていく未来もいいと思うが、やはり横島の問題を解決しなければ答えが出せない


「私はな、お前にＧＳにはなって欲しくない。　一度は人々を救う為に命すら捧げたお前が、今また危険な世界に生きるのは親としては嫌なんだ」

少しためらいがちに語る養父の顔を、おキヌは真剣な表情で見つめる

記憶が戻って以来ゆっくり話す機会も無かった養父だったが、その表情を見ると本当に自分を心配してくれてるのをおキヌは改めて感じていた


「美神さんの考えもわかる。　人には無い貴重な才能があることも理解してる。　でもな、おキヌ…　父としては普通に平穏な幸せを生きて欲しいとも思う」

それは養父の親としての愛情だった

おキヌにとって令子が本当の家族と同じかそれ以上に大切な存在なのも理解している

しかし、養父にも親としての想いや考えがあるのだ


「お義父さん…」

「答えは一年かけてだせばいい。　どんな未来を選んでも私は応援する。　もし、東京が合わないなら帰ってくればいいからな」

それだけ話すと驚きと戸惑いの表情を浮かべるおキヌに、養父は優しく微笑む

そんな養父に、おキヌは一生懸命に言葉を出そうとするがうまく言葉にならない


「無理しなくていい。　答えはいつか出るものだよ」

最後に養父はそう言うと、再び無言になる

おキヌと養父は、そのまま静かに夜空を眺めていった



次の朝、昨夜の事は誰も口にしなかった

しかし、おキヌの表情は幾分元気になったように見えて、氷室家の人々を安堵させる


そして朝食後、おキヌは養母とさなえと三人で墓参りに行くことにした

特に理由は無かったのだが、ふとある人物に会いたくなったのだ


「お久しぶりです。　女華姫様…」

一般的な墓より一回り大きく古いその墓に、おキヌは懐かしそうに語りかけた


「女華姫様って神社を建てた人っけ？」

「うん、私と幼なじみのお姫様だったの…」

不思議そうに尋ねるさなえに、微かな記憶を思い出しておキヌは答える


「御先祖様がお姫様だったなんてな～」

自分の先祖がそんな偉い人だとは思わなかったさなえは、不思議そうに墓を見つめていた


「きっと…、私の為だったんだと思う。　女華姫様はとても優しかったから…」

遠い記憶の彼方にある女華姫を思い出して、おキヌは昔を懐かしむ

自分が死んだ後、女華姫はどんな想いで生きて行ったのか、おキヌは知りたかった


残される者の人生もまた辛く苦しかったのではと、おキヌは最近思ってる

アシュタロス戦後の横島の変化と現状を思うと、女華姫も苦しみ悩んだのかと気になっていたのだ


（女華姫様…　私はあなたの気持ちも、横島さんの気持ちも考えもしなかった。　きっと、幽霊になり全て忘れた私より辛かったのでしょうね…）

心で女華姫に語りかけるおキヌだが、もちろん答えは無い

横島や女華姫はこれよりずっと苦しんでいるのかと思うと、言葉も出なかった


そして墓の前で目を閉じて手を合わせるおキヌを、養母とさなえは静かに見守っていた