新しい生活

そんな様子のタイガーだが、雪之丞が来るまでは特にやることが無い

それと言うのも魔鈴達は、店のランチタイムで忙しいのだ


最近の魔鈴の店だが、横島とタマモとシロが本格的に働くようになってから少しスタイルを変えている

元々一人で営業する為に使い魔に料理を運ばせたりはしていた魔鈴だが、料理や会計などは全て自分で行っていた

理由としては、使い魔は単純作業しか出来ないのだ

従ってランチタイムなどは忙しく大変だったが、横島達三人が来てからはかなり楽になっていた

タマモが厨房に助手として入り、シロはフロアで接客や会計などを担当して、横島は出前が担当になっている

これにより魔鈴は料理に専念出来るため、料理を提供するスピードはかなり早くなっていた

それに加えてランチタイムなどは断っていた出前も可能になり、店の客の反応もかなりいいのである



そんな魔鈴達四人が働く姿を、タイガーは店の奥から静かに見つめていた


「魔鈴殿、本日のオススメ三人前でござる!」

「わかりました」

魔鈴と同じ魔女の服を着たシロがオーダーを受けて、厨房の魔鈴に伝えた

そしてシロは笑顔でテーブルを回り、水を注いだり常連と談笑したりする


幼い姿のシロを知るタイガーにとっては、そんな姿は驚きだった

たまに注文を間違えたり、レジで手間取ったりはしているが客達の反応はいい

一生懸命働き笑顔を絶やさないシロの姿に、客達はみんな協力的なのである


「シロちゃんは凄いですノー」

「あいつは一生懸命頑張ってるからな… 苦手なレジも必死で覚えたしな」

思わず呟いたタイガーの背後に、いつの間にか出前から戻った横島が居た


「横島さん… 出会った時のシロちゃんの姿を思い出すと凄いと思いますケン」

「そうだな… シロは本当に凄いよ。 でもな、あいつは今でもかなり悩んでるんだぜ。 卒業パーティーでルシオラの件を聞いてから、あいつはずっと悩んでる。 俺には言わないけどな…」

出会った頃のシロを思い出しその成長スピードに少し羨ましそうなタイガーに、横島は複雑そうな表情でシロの事を話し出した

決して横島の前で後悔や涙は見せないシロだが、大切な人を失う辛さは良く理解している


そんなシロだからこそ、肝心な時に力になるどころか最近まで気が付くことすら出来なかった自分の無知や無力をずっと嘆いているのだ


「シロは俺の弟子だと言ってるけど、俺はシロに何もしてない。 なのにあんなに悩まれるとどうしていいかわからないよ」

複雑な表情のまま語る横島と笑顔のシロを、タイガーは静かに見つめていた

無邪気にも見える笑顔のシロにも悩みや苦しみがある

それにも関わらず、一生懸命笑顔で頑張る姿はタイガーの心に衝撃を与えていた


「悪いけど、もう少し待っててくれ。 ランチタイムが終われば昼飯にするからさ」

次の出前先があった横島はタイガーに一言告げて、出前に行ってしまう


「横島さんは変わりましたノー」

ちょっと前までは、自分と一緒におちゃらけていた横島の変化もまた、タイガーには眩しいものだった

悩みながらも笑顔を絶やさないシロと成長していく横島の姿は、タイガーにとって遠い存在に感じるほど眩しいものに見えている



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