新しい生活

「知らなかった。 タイガーのヤツそんなに稼いでたなんて…」

予想外の事実にショックを受ける横島だが、エミはその反応が気にいらないようでムッとしている


「横島、おたく私をなんだと思ってるの? まさか令子と同じ守銭奴だとでも…」

「ははは……」

不機嫌そうに睨むエミに、横島は渇いた笑いを浮かべてごまかす


「まあ令子の扱いしか知らないおたくなら仕方ないかもしれないけど、GSは危険な仕事なのよ。 労災や生命保険は当然だし、万が一の場合も考えて積立するのが常識なワケ。 タイガーの前に居た助手も令子のせいで再起不能になったし、普通の雇用者はちゃんとしてるワケ」

エミの言葉に感心しながら聞く横島は、ふとかつての出来事を思い出していた


(あのイケニエでビビって辞めちゃったけど、あそこでエミさんが勝ってれば俺の人生まともだったのかもな~)

寿命が縮むイケニエの話で令子よりタチが悪いと思ってしまったのだが、良く考えれば死ぬような現場にタダ同然で行かされていた令子の方がタチが悪いと横島は気が付く


「タイガーとも相談して積立の割合やなんか決めてるわよ。 それにタイガーは積立抜きにしても生活に困るほどじゃないはずよ、何に使ってるかまでは知らないけど……」

エミとしては最低限の生活は出来る金額は渡している

それ以上はタイガーの人生な為、どう使おうがエミは構わない

その辺りは公私の区別はきちんとケジメを付けてるようである


「タイガーの貧乏症は性格なのかもな~」

エミの話から、横島はタイガーの性格に問題があると思う


「それはいいけど、預かる話はどうなの? 頼むんだし給料も要らないワケ。 本当は私が鍛えるのが筋なんでしょうけど、私だとダメなのよ」

話が一段落した頃、エミは考え込む魔鈴に話を戻す

エミ自身あまり人付き合いはいい方で無いため、多少借りを作っても魔鈴と横島に頼むしか方法が無かった


「お分かりとは思いますが、性格などはなかなか鍛えるのは難しいです。 魔法の中には暗示や催眠もありますが、人の心を操作するのはオススメ出来ません」

魔鈴としては引き受けたい気持ちはあるのだ

タイガーは横島の友達だし、先日の卒業パーティーではエミの一言で助けてもらったのも記憶に新しい

しかし、問題の難しさとエミが求めるレベルがわからないため魔鈴は悩んでいる


「そう言うんじゃ無くていいワケ。 私も黒魔術を使うし、その辺りは理解してるわ。 はっきり言うと、横島と雪之丞に期待してるの。 おたくと雪之丞の経験や価値観なんかをタイガーに教えてやりたいのよ」

魔鈴の悩みをエミは見抜いていた

魔法などで性格を変えるのは、一時的には効果があっても必ず毒になるのだ


それにエミは、必ずしもタイガーをGSにしたい訳では無い

横島もそうだが、霊能の才能=GSが幸せとは限らない

タイガーに自分が教えられないような経験や価値観を教えて、無理なら違う道に行くように決断させたいのだ

女性に対して慣れてきた現在なら、普通の社会でも生きて行けるだろう

高校を卒業した今だからこそ、生きる道を決める選択をさせないのだった
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