番外編・ある秋の日常

それはある秋の日の事だった

いつものようにたくさんの客で賑わっている魔法料理魔鈴に、突然宅配便が大型トラックで訪れる


「お届け物です。 ダンボールで50箱ありますが、どちらにお持ちしますか?」

「はい……?」

宅配便業者の言葉に魔鈴は目を見開いて驚きを隠せない

どう考えてもダンボール50箱は最早宅配便のレベルではないのだ


「魔法料理魔鈴の犬塚シロ様宛になってますが、違ってましたでしょうか?」

業者が困ったように魔鈴に伝票を見せると、贈り主は人狼のようだった


「間違いないです。 とりあえず中にお願いします」

困惑する魔鈴だが、いつまでも業者を待たせる訳にもいかずに店の奥に運んでもらう

そんな店の奥では横島達も突然の大量の荷物に驚きを隠せないが、驚いてる暇も無く運ばれて来る荷物を異界の自宅に運んだりしていく


「スゲーな……」

業者が帰った後で大量のダンボールを開けてみた横島は、思わず言葉が詰まる

ダンボールの中には、きのこや栗や柿などの山の幸がずっしりと入っていたのだ


「手紙が入ってるわよ。 今年は山の幸が豊作だから少しだけおすそ分けだって」

ダンボールの一つに入っていた手紙を読むタマモだが、その量には呆れて物が言えない感じだった


「懐かしいでござるな~」

「気持ちは嬉しいんだけど、この量はなに?」

懐かしい人狼の里の恵みにシロは喜ぶが、タマモはあまりの大量に引き攣った笑顔を浮かべている

店の奥も自宅もダンボールでいっぱいなのだ

それを少しと書く人狼の気持ちがわからない


「足りないでござるか?」

「逆よ! 逆! こんなに食べ切れる訳無いでしょ!!」

どうやら人狼の価値観は人間とは違うようで、シロはこれでも少ないと感じていたようだ

タマモはそんなシロにツッコミを入れるが、肝心のシロは不思議そうに首を捻るばかりであった


「冬は獲物も山の恵みも無いゆえに、里ではこれらの物を保存して春まで食べるでござる。 長老もそのつもりで送って来たのだと……」

不思議そうにシロが説明する中、魔鈴は大量の山の幸をどうするか考え込む


「とりあえず保存しないと、店の冷蔵庫もそれほど入りませんしね」
 
魔鈴は中に入ってる物を確認しつつ保存方法を考えるが、さすがにこれだけの量はどうするか判断が難しい

「うわっ!? 松茸まであるよ!! いいのか?」

数個のダンボールには松茸がぎっしりと入っており、それを開けた横島はさすがに悪い気がしてしまう


「それは人狼の里ではさほど珍しく無いでござるよ。 先生はなんでそんなに驚くのでござるか?」

驚く横島にまたまた不思議そうなシロは、人狼の里では普通に良く食べるきのこの一つだと教えていた


「なんちゅう贅沢な……」

「先生、それは肉より贅沢なのでござるか?」

「当たり前だろ! これ一本で肉が腹一杯食えるぞ!」

「えーー!!!」

横島の説明にシロは絶叫してしまう

人狼の里では松茸はあまり価値が無く、まさか高級食材だとは誰も知らないらしい


「人狼の里じゃあ松茸よりドッグフードの方が貴重なのね」

思わず口に出たタマモのつぶやきに、横島と魔鈴は苦笑いを浮かべるしか出来なかった

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