番外編・横島君と魔鈴さんの休日

街はすっかり夜の闇に包まれていた

ネオンやビルの明かりや車のヘッドライトなど、闇夜を照らす文明の光に二人は包まれている


「せっかくだから二人で飯食って帰りましょうか?」

「そうですね。 よく考えたら二人だけで外食は今日が初めてですし」

賑やかな外食も悪くないが、たまには二人っきりでゆっくり外食したいと魔鈴は思う

そんな二人は創業〇〇年という洋食屋で夕食をとる事にしていた

あまり高級な店では肩が凝って落ち着かないと言う横島の意見により、そこそこ気楽に食事が出来る洋食屋を選んでいたのだ


二人はその店で、会話をしながらゆっくりと食事を楽しんでいく

それは横島にとっては、まさに夢のような時間だったのかもしれない

ただ純粋に一日デートを楽しむなど、少し前の横島にとっては有り得ないと言える事なのだから


そして魔鈴にとってこの時間は、新しい横島の一面を次々に発見した時間でもあった

普段は見れない素顔の横島は魔鈴にとって新鮮である

横島が意外に嫉妬深いと感じたのも、実は今日が始めてだった

まあ普段は横島が不安にならないように嫉妬するような状況にならないように気をつけてるだけなのだが、さすがに今日は道ゆく人の視線が魔鈴に集まる

そんな時横島は魔鈴の腕を少し強く抱き寄せるなど、微妙に反応していたのだ


(嫉妬されるのも悪くないですね)

横島の精神状態は気をつけなければならないが、たまには嫉妬されるのも悪くはないと魔鈴は思う

それというのも普段の横島はかなり優しいのだ

魔鈴を気遣い基本的にワガママなども言わないし、言葉遣いなども微妙に敬語っぽい

優しいのに文句はないが、もう少し男らしく堂々としてほしいとも思うのである



さてそんな感じで食事を終えた横島と魔鈴だが、熱く燃え上がる感情のままにバーに酒を飲みに向かう

さすがに飲み屋関係は魔鈴も知らない為、近くの怪しくなさそうな店に入る事にしていた


「いらっしゃいませ…… って横島!?」

店に入った横島と魔鈴に店員が声をかけるが、その店員は驚いたように横島の名前を呼ぶ


「お前、こんなとこで働いてたのか!?」

店員の顔を見て横島も驚き目を白黒させる

彼は横島の高校時代のクラスメートだった


「ああ……、どうしてもバーテンダーになりたくてな。 しかし、始めて来た元クラスメートが女連れの横島だとは……」

元クラスメートはなんとも言えない表情を浮かべて、横島と魔鈴を見つめる


(あれが噂の彼女か~)

実は横島は知らない事だが、元クラスメートの間では横島に彼女が出来たと噂があったのだ

バレンタインが終わった少し後くらいに横島と魔鈴が仲良く買い物する姿を、偶然クラスメートの一人が目撃していたのである

その時騒ぎそうになったクラスメートを止めたのは、他ならぬ愛子達だった

静かに見守って欲しいと真剣に頼む愛子達に、結果他のクラスメートは知らぬフリをする事で収まったのである

クラスメートの中にはアシュタロス戦の時に横島を裏切り者として扱った者も多く、その事で罪悪感を抱えていた者も少なくない

普段の横島は相変わらず馬鹿をやったりしていたが、その割にクラスに溶け込んでない現実に気付いていた者もいる

結果的ではあるが、横島の彼女に関しては誰も触れぬまま卒業を迎えていたのであった


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