番外編・横島君と魔鈴さんの休日

そのまま再び街をブラブラしていた二人だが次に行ったのは映画館だった

それほど恋愛経験が豊富でない二人だけに、デートとしては基本である映画に来たようだ


飲み物を買って席に座る二人だが、周りはほとんど空いていて人が居ない

時間が平日の午後だし、すでに公開から半月が過ぎている映画なだけにさほど混む事はないようである


「映画って言えば前に中に引き込まれた事があるなー。 モンタージュだっけ? 映画を食う妖怪に関わったんっすよ」

まだ明るい館内で真っ白なスクリーンを見ていると、横島はふと昔を思い出す

よくいろいろな事件に巻き込まれたりしたなと自分でも悲しくなるが、今思えばトラブル体質なのは令子も同じなのかもしれないと感じていた

昔はモノノケに好かれやすいと散々言われた横島だが、令子と距離を空けてからはさほど妙な事件に巻き込まれる事が無くなったのだ


(混ぜるな危険ってか)

自分と令子の関係を思い出し、案外二人揃わないといいのかと思う


「モンタージュですか? それは珍しい妖怪に会いましたね。 除霊難易度Sクラスの妖怪ですよ。 映画や絵画などに込められた魂を食べる妖怪ですが、強さは弱いのですが何より逃げ足が速く現実世界には滅多に姿を現しませんからね。 確か、前に除霊されたのは8年ほど前だと聞いた気が……」

「映画の中に引き込まれたんっすよ。 映画の主役の人にね。 それで映画の中で美神さんが退治したんだったな」

モンタージュを退治出来た事に不思議そうにな魔鈴に、横島はあの時の事を思い出して話していく

横島は少し面白おかしく話していくが、魔鈴は微妙に苦笑いしたままである


「相変わらず危険な事ばかりだったんですね…… 主役の方がモンタージュに食べられたら、おそらく永久に映画のフイルムに閉じ込められますよ」

魔鈴が告げた知らなかった事実に、横島の顔が真っ青になっていた

あの時は令子を信じて、令子と一緒ならば絶対に大丈夫だと理由のない安心感があった

しかしそれがいかに危険で綱渡りな事だったんか、今更ながらに気付かされている


「魂を宿したとはいえ、現実と映画の中を行き来出来るなど聞いた事がありません。 その映画のフイルムも半ば妖怪化していたと考えた方がいいでしょう。 おそらく主役の方が居なくなれば元に戻っておわりだと思います」

別に脅すつもりなどない魔鈴だが、一応説明はしておこうと考えたようだ

同じ事に合うとは思わないが、よくある事だと思われても危険なのだから


「そうなんすね」

横島は微妙な表情のまま無意識に隣にあった魔鈴の手を握り閉めており、魔鈴もそれ以上は何も言う事なく静かに握られた手に力を込める

温かい魔鈴の温もりは横島を過去から引き戻して、現在の幸せを改めて実感させていく


そんな二人が無言になって少しすると館内の照明が暗くなり、映画の予告が流れ始める

横島と魔鈴の繋がれた手は映画が終わるまで離される事はなく、同じ映画なのに一人で見てるよりも素晴らしい映画に思えたのは気のせいではないだろう

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