番外編・横島君と魔鈴さんの休日

そんな趣味と実益を兼ねたような昼食を終えた二人は、店を出て街をあてもなくブラブラと歩いていた

様々な人々が行き交う中を、二人は再び腕を組みゆっくり歩いてゆく

途中小さな雑貨屋を見つけてふらりと寄ってみたりするなど、何も目的もない時間を楽しむのは二人にとって随分久しぶりだった


(俺が望んでた高校生活ってこんな感じだったのかもな)

可愛らしいティーカップを手に買おうか悩む魔鈴を見て、横島は何故か中学の頃を思い出している

横島でもかつては高校生活に憧れや理想を持っていた

彼女を作って甘く楽しい高校生活を送りたいという、理想を抱いていた頃もある

結局その理想は叶わなかったし自分の歩んだ高校生活を全否定するつもりもないが、もし普通の高校生活を送れたらどうなっただろうと考えてしまうのは仕方ない事だろう


(魔鈴さんの高校時代ってどんなだったんだろう)

かつての理想の高校生活を思い出した横島はその場面に魔鈴が居ればどうだったかと想像するが、魔鈴のセーラー服を想像したあたりで微妙に表情がニヤけていた


「楽しそうですね?  何を見てたのですか?」

突然ニヤけた横島に魔鈴はキョトンとした表情で問い掛ける

店には魔鈴と横島しか居ないし、何がニヤけるほど楽しいのかわからないようだ


「いや、なんでもないっすよ! 魔鈴さんのセーラー服姿を想像なんてしてません!!」

「はい!?」

条件反射のように慌てて否定する横島だが、思っていた事を口にしてしまう癖が珍しく出ていた

元々横島がそんな想像をすると有無を言わさずに虐待されるので、条件反射的に焦ってしまったのだろう

それに久しぶりにいろいろな重圧から解放されたため、以前の軽さが少し出ていたのかもしれない


「いや~ なんでもないっすよ。 本当に」

アハハと笑ってごまかそうとする横島に対し、魔鈴は少し恥ずかしそうな笑顔である


(もしかして、私にセーラー服を着せたいのでしょうか?)

流石に20代半ばでセーラー服を着るのは、魔鈴としては恥ずかしいとしか言いようが無かった

しかし横島が望むなら二人っきりの時ならば……、そんな考えが頭をよぎるあたり魔鈴も横島に影響されてきたのかもしれない


(若いな)

一方雑貨屋の主人である中年男性は、静かな店内に響く二人の会話に背中がむず痒くなる気がしていた

その後ティーカップのセットを買った魔鈴だったが、店主の存在に気付き少し恥ずかしそうだった事は付け加えておく


さてそんな感じで再び街をブラブラして二人の時間を楽しむ横島と魔鈴だが、その後も二人にとって新鮮な出来事が多かったのは予想外かもしれない

毎日一緒に居てそれなりに相手を理解していたつもりだったが、普段は見えない相手の事が多く見えていたのだ

二人共背負うモノが多いだけに、普段はあまり見えない素の部分が多く見えたのは新たな発見であり嬉しい事だった


そんな新たな発見があると当然二人とも相手への愛情を再認識する訳で……

時間が過ぎるに従って二人の甘い空気が強くなるのだが、それを本人達は気付いてない


6/11ページ
スキ