善意と悪意の狭間で

温かい食事が終わると一行はそのまま囲炉裏を囲んでお酒を飲むことに移るが、地酒を中心に日頃はなかなか味わえないお酒を堪能することになる。

同時に年少組には食後のデザートとして団子を囲炉裏で焼いて食べる物などが用意されてこれも好評だった。


「そう言えば、横島。 お前文珠は今でも作ってるのか?」

「ん? ああ、作ってるよ。 貯まる一方だけどな。」

特に内容がない雑談をしていた一行であるが、ふとワルキューレは横島に今でも文珠を作ってるのかと尋ねる。

現状で横島の文珠を一番使うのは何気に愛子であり今回のような出掛ける時に本体の机を小さくするのに使っているが、それ以外は魔鈴の自宅と自身でストックしていた。

後は妙神山への移動に転移するのに使うくらいで、除霊では魔鈴の魔法があることからまず使うことはない。

実は横島の霊力自体が魔鈴による霊能の基礎修行の成果もあり今も延び続けているので文珠を精製するペースは上がっているが、いかんせん使い道が限られてるので宝の持ち腐れとなりつつある。


「文珠を複数で使う修行は余裕があるうちにしておけよ。 あれは本来は複数で使うことで真価を発揮する。 何かある訳ではないが、いつまでも平和が自動的に続くなど思うなよ。」

ほとんど使い道がないと愚痴るように話す横島に、ワルキューレは文珠を使った修行をすることをするようにと告げていた。

横島が昔のように常に最前線で戦っていたならまた違うのだろうが、現状の横島は必ずしも霊能だけに重きを置いてない。

元々文珠は一度に使う数が増えれば増えるほど霊力コントロールが難しくなるし、一言で言えばセンスや経験も必要になる。

ワルキューレは何か懸案がある訳ではないと言いつつも、現状の横島の平和が神魔界を含めた三界の微妙なバランスの上に成り立つことには不安も感じていた。


「そうですね。 文珠に関してはそろそろ手をつけるべきかもしれませんね。 以前聞いた話だと二人で二つの文珠を使って一つの文字を完成させたと言うことですし、少し研究もしてみたいんですよね。」

それは元々戦いの中に身を置くワルキューレが平和ボケの兆しを見せている横島への忠告ではあったが、意外なことに今まで横島の修行をセーブしていた魔鈴が文珠関連の修行と研究に興味を示す。

基本的に一つだけでも万能に限りなく近い文珠だけに複数で使うのは正直【転移】で移動に使うだけというのは勿体なく、魔鈴自身も以前から文珠の可能性と限界は研究する必要性を感じてはいた。

その気なれば一つでアシュタロスにもダメージを与えた物であるが、単純な一文字での力押しにはそれなりに限界があるのだ。


「しかし、あれは反則だよな。」

「神魔には切り札を持つ者が多いですが、文珠に完全に対抗できるのは相当上位の神魔でなくては無理ですよ。 正直私クラスの神魔では敵として戦えば勝てないでしょうね。」

そのまま話は何故か文珠になり雪之丞やタイガーはその万能性から反則みたいな能力だとぼやくが、小竜姫は切り札としての文珠は神魔でも有数どだと認めるほどで小竜姫自身も敵としてまともに戦えば勝てないかもしれないと語る。

その言葉にアシュタロス戦を話でしか知らない愛子や小鳩や銀一は改めて驚くが、彼らはどうしても日常の横島を見てるとそこまで凄いとは見えないのだろう。


「いや、小竜姫様には勝てませんって。 超加速使われたら終わりじゃないっすか。」

尤も横島本人は小竜姫には勝てないと本気で考えてるらしく全力で否定していたが。





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