善意と悪意の狭間で

結局この日は雪まつり会場を満喫して旅館に戻ることになるが、真冬とはいえ完全防備で雪まつり会場を走り回っていた天龍とパピリオとシロは冷えるどころか汗ばむほどであった。

残る横島達も年少組を気にしつつ会場を見て回ったが、地元の住民や子供達が製作した人間の大人くらいの大きさの雪像なんかもあって結構楽しめている。

ちなみにシロや貧は先にポスターで見た大食い大会に出たいと騒いだのだが、流石に二人の食欲で食べまくると普通に優勝しそうなので魔鈴は騒ぎになるとダメだからと屋台の食べ物をあげて諦めさせていたが。


「おっ、露天風呂か。」

そして旅館に戻った横島達は冷えた体を温めるようにさっそく温泉に入るが、温泉は檜の内風呂だけでなく露天風呂もある。

内風呂の暖かい空気から露天風呂のある外に出るとあまりの寒さに戻りたくなるも、その分だけ露天風呂の温かさが体に染み渡るようだった。


「僕は温泉なんて初めてですよ。」

「そういや温泉ってヨーロッパにはないのか?」

「結構ありますよ。 僕は入った経験はないですけど。 日本と一番の違いはヨーロッパだとほとんど水着を着て入るらしいですよ。」

横島達男性陣はみんな露天風呂に来てしまい見渡す限りの雪景色と手を伸ばせば雪が触れる中での露天風呂を堪能するが、そんな中で意外といえば失礼かもしれないが普段より楽しんでいたのはピートである。

日本に来日して結構経つがその日の食事にも困る有り様の唐巣の教会に住むピートなだけに、日本らしい観光などはほとんどしてなかったらしい。

まあピート自身もブラドー島の仲間達のこともあってそこまで精神的な余裕がなかったことも理由にはあるようだが。


「へーあるのか、しかも水着でなんてな。 日本だと有り得んな。」

ある意味生まれ育った環境と全く違う異文化だけに見るもの全てが新鮮らしく、話は何故かヨーロッパと日本の温泉文化の違いになっていた。

横島や雪之丞達からするとヨーロッパの話は逆に物珍しく天龍童子も自分の全く知らない異文化に興味津々だ。

ただピート自身も実はヨーロッパでは不特定多数の人間と入る温泉には入った経験はなく、情報として知ってるだけだったりする。

ヨーロッパでは現代でも危険視されている吸血鬼なだけにのんびり温泉に入る機会などなかったのだろう。



「あなた達、温泉で泳ぐのは止めなさい!」

一方女湯でははしゃいで温泉で泳ぎ始めるパピリオとシロを小竜姫が注意していた。

しかもこちらは冥子が式神まで温泉に入れたりしていたので、かなり賑やかであり魔鈴と小竜姫は冥子が暴走しないかと気を使ったりと結構忙しい。


「ぷはー、やっぱり温泉にはお酒が合うのね。」

「ヒャクメ様、私はまだ未成年なんですけど。」

「今日は私が許すからいいのね。 さあさあ三人とも飲むのね!」

そしてヒャクメは何故か小鳩と愛子とタマモの三人と一緒に露天風呂で酒を飲み出している。

愛子とタマモはまだ妖怪だからいいが小鳩は未成年であることを理由に困惑ぎみになるも、ヒャクメは神様である自分が許すからいいんだと飲ませてしまう。

流石に小鳩にはアルコール分の少ない酎ハイだったが。

ちなみに普段は旅館では温泉の中での飲酒は禁止してるらしいが、貸し切りであることで今回は自己責任でならばお好きにどえぞということらしい。

詳しい正体はバレてないようだが、どうも人間じゃない客が混じってると旅館の人も気付いてるようだった。



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