善意と悪意の狭間で

その後横島達が向かったのは雪まつり会場であった。

場所は山間にある町で一番の自然公園であり、小さいながら町営のスキー場も併設されてるところである。


「結構賑やかですね。」

町中ではあまり人もおらず寂しい様子だったが、雪まつり会場は結構賑わっていた。

近くの駐車場はほぼ満車のようで駐車場待ちに並ぶ車が居たかと思えば、真冬の寒さにも関わらず出店があることには横島達も驚かされている。

季節的にも温かい食べ物が人気のようでおでんやうどんなんかは混雑すらしていた。


「おお、これが雪まつりか!」

会場内で目立つのはやはり子供や未成年達であった。

自分と見た目だけは近い年齢の子供達の様子が天龍童子は気になるようで、そんな子供達の行く先をきょろきょろと見渡してはあれは何かと横島達に質問している。

メインは地元の自衛隊が作った大雪像と巨大な雪の滑り台であり、細かいところまで精巧に作った大雪像なんかは大人に滑り台は子供に人気だ。


「祭りというのに祈りも何もないのですね。」

「現代だと祭りはイベントの一種になっているんですよ。 古くからある祭りは神々や自然に感謝し祈るものもありますが、ここのように皆で集まり楽しむことも祭りといいますので。」

一方小竜姫は祭りとの言葉から本来の祭りの意味とはかけ離れた雪まつりに興味深げな様子であった。

令子や横島達と会うようになり、だいぶ現代に慣れた小竜姫とはいえまだまだ知らないこともあるらしい。

ただ実際にはヒャクメや斉天大聖は人間界にそれなりに詳しいので、二百年近くほとんど一人で修行をしていた小竜姫が神族の中でも特に情報に疎いだけだったりするが。


「お前らやり過ぎるなよ。 騒ぎになるから!」

巨大な雪の滑り台を見つけた天龍童子・パピリオ・シロに何故か愛子と小鳩を加えた五名は我先にと滑り台に走っていくが、横島は慌てて前者三人にやり過ぎるなと注意をする。

比較的他人に無関心な東京ならいざ知らず地方で空を飛んだり力を使えば騒ぎになりかねない。


「面白いでちゅ!」

「もう一度いくぞ!」

「了解でござる!」

大きな滑り台から滑り降りてくる子供達に混じって五人は次々と滑り降りてくるが、予想外に楽しかったのかパピリオ・天龍童子・シロの三名はすぐに再び滑り台の列に並びもう一度滑るらしい。


「こうして見てるとあいつら子供っすね。」

「殿下の場合はなかなか同年代と普通に遊ぶなど出来ませんから。 遊び相手は居ますが所詮は家臣ですし。 昨年の夏の後の殿下のご様子に竜神王様も喜んでおられましたよ。」

雪がちらつく寒さの中で滑り台を楽しむ年少組を見ているとまるで親にでもなった気分になるが、小竜姫はふと前回の夏の旅行の後日談を横島達に語り始める。

偶然とはいえ横島を見出だして神通力に目覚めたことで大人として扱われ始めたものの、周りの者からするとまだまだ子供だとの印象もあったりと必ずしも天龍童子が望む形にはなってはいない。

しかし天龍童子が夏の旅行以降はそんな自分の状況に焦らなくなったらしい。


ちなみに余談ではあるが天龍童子の人界行きは魔族側とのバランスの関係もあり神界上層部や竜神族の間でも少々議論があったようであるが、その成長に少なくとも竜神族内の反対意見はほぼ消えたとの裏事情もある。

魔族側で一番格が高いワルキューレと天龍童子では格が合わないとの問題は神界側のみならず魔族側からも出ていた。

ただそれを言うならば天龍童子を引っ張り出してちゃっかりと自分も加わった斉天大聖がもっと問題になるが、かつて単独で神界に攻め行って大暴れをした斉天大聖にダメだと面と向かって言う神族は少なくとも現状ではいない。

下手に機嫌を損ねると横島が仲介する神魔交流にも影響を及ぼしかねないだけに、本人が協力してる以上問題視するのは避けていた。

まあ正式な交流ではなく横島個人が主催する交流だけに最終的には神魔の上層部は関係ないとの立場に落ち着いているのだ。



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