善意と悪意の狭間で

長旅の一行がたどり着いたのは木造の古びた温泉旅館だった。

周囲には一メートル以上の雪が積もっていて、まるで温泉旅館が雪に埋もれてるような印象がある。


「潰れそうじゃのう。」

「雪国の建物は見た目以上に強いから大丈夫ですよ。」

お世辞にも綺麗とは言えず雪に押し潰されそうなその旅館に、カオスは旅館の従業員らしい年配の女性の前で遠慮なく潰れそうだと口にする。

唐巣やピートはそんなカオスの言葉に困ったような表情をするも、従業員の女性は笑ってよく言われると教えてくれた。


「ここって霊泉として有名なとこよね?」

「そうですよ。 よく怪我をしたGSの方などがお忍びでおいでになります。」

旅館の内部は完全な木造で長年使い込んだ独特の光沢が印象的だった。

窓には雪囲いがあり外から入る光が少ない分だけ昼間から照明をつけているが、これまた昔ながらの暖かみのある照明が旅館とよく合っている。

入口で身体に付いた雪を落とし少し暑いくらいの室内に驚く中、どうやらこの温泉を知っていたらしいエミは従業員の女性に声をかけた。

実はこの旅館は妙神山と同等と言えるほど日本でも最高峰の霊泉としてオカルト業界では比較的有名なのだ。

霊障で受けた傷や怪我がここで良くなったとの話のある霊能者御用達の旅館である。

ちなみにここには人間だけではなく妖怪なども密かに来ることがあるが、ここでは争わないというのが昔この土地の神が定めて以降は慣例となっていて問題になったことはない。

旅館の人間も相手が誰かは詮索などしないし誰が来たなどと口外しないので、GSのみならず幅広い顧客がいる隠れた人気旅館だった。


「貸しきりにするのも良くあるワケ?」

「そうですね。 時々おられますよ。」

魔鈴は今回はここを二日貸しきりにしていて連泊する予定であるが、時々貸しきりにする客が居るらしい。

そもそも魔鈴がここを選んだ理由は貸しきりに出来ることが第一であった。

神魔組が温泉で不特定多数の人間と一緒に温泉に入るのに抵抗があるかもしれないからとの配慮からである。

どちらかと言えば霊泉というのはついでだったりもするが、近くで雪まつりがあることやスキー場も近いなど総合的な判断で決めていた。

実は北陸地方の個室露天風呂がある高級旅館と最後まで迷いに迷った結果でもあったが。

ちなみに今回の旅行代金に関してはエミや唐巣や冥子や銀一に神魔組から代金を貰っていたりする。

横島は少し渋い顔をしたが毎度横島達の奢りで行くのは大人としてはあり得なくお金はある人からは最低限頂くという形にしていて、小竜姫達や唐巣達とそれぞれ個別に日程などを相談した際に話をした魔鈴が決めていた。

まあ実際には費用を全額神魔側で出してもいいから交流を続けてくれというのが神魔側の偽らざる本音であるが。

ただ横島と魔鈴の負担を減らすのはほぼ規定路線となっていて横島にはどうすることも出来なかっただけだった。
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