善意と悪意の狭間で

それからまた一時間半ほど電車に揺られていただろうか。

トンネルを抜けると雪国だったというほどはっきりはしてないが、電車はいつの間にか銀世界の中を走っていた。

冬に行く温泉は雪国だろうという横島の思いつきにより、この日の目的地は雪国の温泉なのだ。

まあ雪は妙神山にも降るので小竜姫やパピリオには珍しくもなんともないが、妙神山ではウインタースポーツをやるような場所も習慣もないので楽しめるのではと考えてるらしい。


「うおー、寒い!」

そして目的に到着した一行が感じたのは東京とは全く違う冷たさと寒さであった。

一応雪国に来るように厚手の上着は着ているが慣れないだけに寒さが身体に堪える。


「何処が寒いのだ。 この程度の寒さで騒ぐなど鍛え方が足りん。」

「ワルキューレさんは元々北欧の神でもありましたからね。」

ただ基本的に神魔組は寒さにも平気な様子であり、特にワルキューレなんかは寒さに騒ぐ横島を鍛え方が足りないと切って捨てる。

かつて北欧神話の神であったワルキューレからすると日本の東北程度の寒さはたいしたことがないのだろう。

ちなみに人間では唐巣が平気な顔をしていて実は旭川育ちである彼は雪国の寒さに慣れていたりする。


「冬まつりってなんでちゅか?」

そのまま自動改札などない一日に何本も電車がないような昔ながらの駅を出ると、田舎町であるそこには雪まつりのポスターやのぼりがそこらじゅうにたくさんあった。

パピリオや天竜童子はまつりの文字に期待に満ちた表情でポスターを見ているが、実はこの町では今日と明日は雪まつりが行われるのだ。

札幌の雪まつりのように大規模でもなければ有名でもないが、それでも大型の雪像や雪の滑り台なんかはあるし各種イベントに夜は僅かだが花火なんかも上げるらしい。

正直東京からわざわざ来るほどでもないとも言えるが、ちょうどよく雪まつりが行われるのも旅行がここに決まった理由の一つである。


「北国では雪を使った冬のお祭りがあるんですよ。 良かったら後で見物に行きましょうね。」

「おお、人間の祭りは一度見てみたかったのじゃ!」

パピリオや天竜童子は珍しい人間の祭りに行けるとご機嫌な様子だが、シロとタマモや愛子と小鳩も思った以上に楽しみな様子であり特に小鳩は雪国自体が初めてだと先程から銀世界に感動していた。


「みんなで雪合戦しましょうね~。」

「おたくが雪合戦やれば式神を暴走させるからダメなワケ。」

ちなみに大人組では全体としてお酒や食事が楽しみなようであったが、冥子は何故かみんなで雪合戦をやりたいと言い出すも当然ながらエミに止められている。

最近は暴走も以前より少なくはなったが、それでも無くなった訳ではない。

そのまま相変わらず纏まりがないまま、一行はとりあえず今夜の宿となる温泉旅館にバスに乗って向かうことになる。




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