善意と悪意の狭間で

「なかなか早いではないか!」

駅弁などを買い込んだ一行は新幹線で東京駅を出発する。

電車など乗ったことがなく乗用車やバスがせいぜいの天龍童子は、子供のようにはしゃいで窓から流れる景色を食い入るように見ていた。


「神様の世界には電車ってないんですか?」

「電車や車の類いはないですね。 神々の乗り物とされる神話に登場する乗り物なんかはある物もありますが、神族は瞬間移動などの術が使える神も多いですから。 基本的には何事も個人の力で何とかするのが一般的なんです。」

新幹線に喜ぶ神族のお偉いさんの子供に愛子は神族はどんな世界でどんな生活をしてるのかと素朴な疑問を抱くが、根本的に人間界と神界では基本的な価値観から環境まで違う。

そもそも神魔という存在は協調性という部分では人と比べると必ずしもいいとは言えなく、個の力が天と地ほども違うので公共性という概念は全くとは言わないがあまり存在しない。

空を飛び瞬間移動する神族の世界においてわざわざ電車や車は必要ないということだろう。


「そうなんですか。」

「少なくとも人間が想像するような完全な理想世界ではないですよ。」

そんな愛子の何気ない一言から語られた神界の話には魔鈴やエミですら興味深げに聞いていた。

神族が居て神界が存在するのはオカルト関係者では常識であるが、だからと言ってリアルな神界の話を知ってるかと言われると知らないのが当然だった。

宗教が語る神々の世界の話や真偽が不明な神界の話は聞いたことがあっても、いわゆる都市伝説のようなもので信憑性は不確かなものばかりなのだ。

基本的に宗教においては神々の言葉を疑うことなどはタブーであるし、いかにGSと言えども神々にどんな生活をしてるのかなど普通は聞ける訳がない。


「この弁当も美味いな!」

「本当でちゅ。」

「だろ? 駅弁とかは冷めたままでも美味しいように作ってるからな。」

一方窓際の座席に座った天龍童子やパピリオは景色を見ながら食べる駅弁に夢中になっていた。

両者とも普段とは違う環境と食事が楽しくて仕方ないのだろう。

パピリオは違うが天龍童子の場合は立場上食事も堅苦しいものなのかもしれない。



その後一時間半ほどで一行は新幹線を下りて普通の電車に乗り換える。

地方のローカル線の電車は新幹線とはまた違った物であり、速度も乗り心地も他の客も全く違っている。

ガタンゴトンとの心地いい走行音が聞こえる中、他の客は観光客が少しと年配者がほとんどだ。

それがかつてアシュタロス戦の最中に乗った電車に近く、パピリオやベスパは少ししんみりとした表情で窓から流れていく景色を見ていた。

全体として東京のような急かすような早さがないローカル線の電車は時の概念が人間とは違う他の神魔組にも好評なようで、斉天大聖なんかは先程から駅の売店で買ったコップ酒をちびちびと飲んでいて周りの年配者と変わらぬように見える。

ワルキューレやジークは同じく駅の売店で買った観光ガイドを見ており、ピートを含めた彼らは見た目の姿からして白人に見えるので日本に来日した外人の観光客のようであった。


「小竜姫様もワルキューレも今はあんな感じだけど仕事になればおっかないぞ。 ワルキューレには初対面で有無を言わさず吹っ飛ばされたからな。」

そして横島はといえば、銀一や愛子や小鳩に何故か小竜姫やワルキューレと出会った頃の話をしていた。

初対面の小竜姫にセクハラ紛いのことをして斬られかけたと言うと呆れた表情をされたが、斉天大聖と違いイマイチ凄さが伝わってこない小竜姫やワルキューレと横島の出会った話は興味深く面白いと感じたようである。

尤も唐巣はついでに明かになった小竜姫に対する令子の初対面での無礼な態度に頭を抱えていたが。



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