善意と悪意の狭間で

それから数日が過ぎて一月も残り僅かとなったこの日、横島達は雪之丞と愛子と小鳩と貧と一緒に東京駅に来ていた。

目的は以前から予定している旅行の為であり前回は魔鈴の店で待ち合わせだったのだが、神魔組が思っていた以上に人間界に慣れてることから今回は東京駅で待ち合わせして電車で行くことにしている。


「慣れって怖いわね。」

「何がだ?」

「何でもないわ。」

少し早めに東京駅に到着した横島達は電車で食べる駅弁などを見ていたが、愛子はふとこの環境に馴れた自分に何とも言えない心境になってしまう。

神族と魔族と妖怪が一緒に旅行に行くなんてどう考えても変だと未だに思う愛子自身も、そろそろ慣れてきたというのが本音であり案外慣れるのが早いなと自分のことながら思ってしまうようである。

というか神族や魔族や妖怪とそれぞれに友好関係を築いた人間は他にも居るだろうが、一緒に旅行に行こうと考えるのは横島しか居ないんだろうなと愛子はしみじみと思う。

事実横島に近い立場の令子やエミや唐巣はそんなことしないのだから。

ちなみに愛子は何度か遊びに行った妙神山での経験から神族は暇だと思っていて、魔族も結構暇なのかなとかなり失礼な勘違いをしていた。

実際は小竜姫や斉天大聖は妙神山に居るのが役目なので暇とかそういう次元の話ではないし、ヒャクメやワルキューレ達は結構忙しい神魔なのだが。

ただ相変わらず神魔を仲介しているのが横島一人であり神魔の緊張緩和であるいわゆるデタントの最後の切り札だという事実は、神魔組以外では小竜姫と協力関係にあるタマモしか知らない秘密であり絶対に横島達には漏らせないことではあるので愛子が知るはずもないことである。



さてそのまま続々と旅行参加者と合流していくが参加者は前回と同じで、先に上げたメンバーの他にはエミ・冥子・唐巣・ピート・タイガー・カオス・マリア・銀一の人間組に、小竜姫・斉天大聖・ヒャクメ・天龍童子の神族組、そしてワルキューレ・ジーク・ベスパ・パピリオの魔族組だった。


「電車という乗り物は初めてじゃ。」

「パピは前に電車に乗ったことあるでちゅよ。」

「むっ、羨ましくなんかないぞ! 余も今から乗るんだからな!」

駅に到着早々田舎者のようにキョロキョロとしていたのは天龍童子であり、どうも今回は電車に乗れるのを人一倍楽しみにしていたらしい。

パピリオはすかさず自分は乗ったことがあると自慢すると、天龍童子はあからさまに羨ましそうな表情をしつつも羨ましくないと意地を張る。


「それよりも電車の中で食べる駅弁はどれがいいですか?」

なんというか喧嘩とまではいかなくても張り合う姿勢を見せる両者だが、魔鈴が駅弁の話にすり替えると二人は張り合うのを止めて我先にと駅弁を選び始めた。

魔鈴が天龍童子と会うのは前回の旅行以来だが、魔鈴もこの半年で小竜姫達神魔に慣れたからか前回よりは気楽な様子で天龍童子に対しても最低限の敬意を払う程度で済ませている。

まあ本当にまずければ小竜姫やワルキューレがなんとかしてくれるだろうとも思っているし、端から見ると双方とも旅行を楽しみにしてる子供にしか見えないこともあるが。


「銀一君、周りにバレてるけど大丈夫なわけ?」

「隠すようなことじゃないので。」

「万が一の時は私がフォローするよ。」

一方芸能人である銀一はサングラスはかけているもののあからさまな変装ではなく、周りの人々にバレてサインを頼まれたりしていた。

エミはこんな女性が多いメンバーと一緒のところを見られてマスコミが大丈夫なのかと心配するが、銀一は下手に隠して騒ぎになるよりは堂々としたいらしい。

尤も唐巣には事前に万が一の時のフォローを頼んでいて、それなりに対策はしていたが。

加えて銀一も知らないが実は六道家と百合子も、この旅行に関してマスコミが記事にしないようにと密かに協力して根回ししていたりする。

流石に六道家と百合子も旅行に隠された神魔の情勢は知らないが、オカルト業界としても個人としても神魔が揃う旅行を面白おかしく書かれ芸能スキャンダルにされるのは困るのが本音だ。

六道家は娘が参加する意義を考えたら当然フォローする側に回るし、百合子は小竜姫には横島の件で世話になってるのでこのくらいは当然の配慮だった。

元々百合子と冥菜は水と油のような相反する立場だったが、その両者が共通の目的の元で協力したこの一件は恐ろしいほど上手くいくことになる。

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