ゆく年くる年・2

「それにしても……。」

一月も後半に入り横島が計画した旅行が間近に迫ったこの日、唐巣は六道家を訪れていた。

どこか胃が痛そうな表情にも見える唐巣はまた少し頭が薄くなったような様子で冥菜と向き合っている。


「本当に困ったものね~。」

対する冥菜は相変わらずのほほんとした笑顔でまるで午後のテータイムを楽しむようにお茶を飲んでいるが、二人の前には幾つかの書類があり例のザンス過激派の問題に関して話し合いをしている最中だった。

百合子の仲介もあって六道家は日本国内にてザンス過激派のテロを防ぐべく首相が指揮する対策チームに加わったが、冥菜はGS協会代表として唐巣も今回の計画に加えていたのだ。

現段階ではまだGS協会自体にも秘密にしているが、GS協会と最終的にはオカルトGメンまで加えるとなるとGS協会側の代表は唐巣のほかに人材が居ないのが現状である。

官邸や外務省・警察・公安などの組織にGS協会とオカルトGメンまで加わることになるこの対策チームには何より調整能力が必要であり、加えて後で加わるかもしれないオカルトGメンの英雄美神美智恵を抑えられる人物でなくてはならない。

ただ対策チームが出来たからと言って物事がすぐに円滑に進む訳ではなく現状では調査と対策を平行しているが、はっきり言えば日本の危機管理はお世辞にもいいとはいえずあまり上手く行ってない。


「やはりザンス王国に深入りするのは危険では?」

「それはみんな分かってるわ~。 それでも多少のリスクは承知でみんな精霊石の莫大な利権は欲しいのよ~。」

小竜姫達も横島をあまりザンス王国に関わらせないようにとタマモに頼んでいたが、実は対策チームの面々もザンス王国にあまり深入りしたいとは思ってなかった。

オカルトや宗教に疎い政治家はザンス王国の精霊石の利権に加えて日本からザンス王国に行われる経済支援などの利権に目の色を変えているが、ザンス王国は下手に関わると火傷では済まされないほど厄介な国である。

破門されてはいるが宗教家として苦労してきた唐巣は、六道家がこんなリスクが高い一件に関わること自体驚きであった。


「それに美智恵ちゃんみたいに国を敵に回すのは出来ないもの~」

正直今回の一件に関しては国が本気になってることから断れなかったというのが冥菜の本音であり、冥菜本人も元々あまり気乗りしない一件なのだ。

ただ国が困ってる時に協力しないという選択肢は六道家にもGS協会にも存在しない。

別にアシュタロスのような勝てない相手と戦って死んでこいと無理難題を言われた訳ではなく、国家としてテロを防ぐための協力をして欲しいと言われたならば仮に今後ザンス王国の問題に巻き込まれる危険がある程度では拒否など出来るはずがなかった。

まあ実際問題としてザンス王国の精霊石利権が美味しいのは確かで、上手くいけば六道家もそれなりに美味しい思いを出来るので丸っきりボランティアでもないのだが。


「しかもオカルトGメンはかやの外ですか。」

「仕方ないじゃない~。 狙われてるのが令子ちゃんと西条君なんだから~。 それに美智恵ちゃんは信用されてないし~。」

今回事実上オカルト業界の指揮は唐巣が取ることになるがそれには以前も説明した政府のオカルトGメン不信以外にもきちんとした理由もあり、テロ計画の当事者にオカルトGメンが入ってる以上は今回の対策チームに入れる訳にはいかなかった。

ただそれでも後にテロ事件を公式発表する場合にはオカルトGメンも協力したことにするとの確約もあって、一応オカルトGメンのメンツも立てる予定である。

ぶっちゃけ政府からすれば頼むからなにもしないでくれと考えるほど美智恵は本当に信用されてない。

特に今回は令子が狙われてることもあって、またアシュタロス戦のように勝手な行動をされたら困るのだ。


「必要な人材は唐巣君の判断で加えていいわ~。 とにかく情報漏れだけは注意してちょうだいね~。」

唐巣は自分はこんな難しい事件を指揮するような器でないのにと内心で愚痴るも、問題がデリケート過ぎて美智恵に任せられないのも理解している。

それに令子や横島など弟子とも言える知人が狙われてるだけに嫌だとは言えなかった。

当分は胃薬が必要かなと深い溜め息を溢しながら冥菜との打ち合わせを続けていく。


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