ゆく年くる年・2

「あの、魔鈴さん。 俺もそろそろ基礎以外の修行を……。」

「だめです。」

さて巻き寿司で夕食にした横島はこの日は除霊の仕事がないことから霊能の修行をしていた。

精神統一しながら霊力を高め身体中に行き渡らせるなど本当に基礎中の基礎の修行であり、いい加減横島は他の修行がしたいと頼むが魔鈴は考えることもなく即決でダメだと言い切る。

ここ最近の横島の霊能の修行は仕事の兼ね合いもあって週に三日ほどだったが、行っているのは知識面での勉強と基礎修行のみであった。

かつては肉体の限界付近まで追い込み修験者としても有名な天狗にまで修行を頼んだ横島であるが、昨年は基礎修行のみで天狗のところには一季節に一回ほどしか行ってない。

魔鈴宅に来てからもうすぐ一年になるが、横島としては正直こんなペースでいいのかと不安な部分もある。


「横島さんは霊能に関しては一種の天才ですが、だからこそ基礎は人よりきちんと学ぶべきなんだと私は思います。」

実際横島の霊能は魔鈴を超えてる面も多々あり、実戦の中で掴んだとは思えぬほど多彩であった。

魔鈴はそれを一種の天才だという表現をするが、横島としては死ぬか生きるかの瀬戸際で偶然掴んだだけだという認識でしかない。


「こういう言い方は良くありませんが、普通はどんなに才能があっても基礎も知らない素人が実戦の中で力を得るなんて出来ないんですよ。 はっきりいえば普通は死にますから。」

「いや、それはそうかもしれないっすけど。」

「いいですか、横島さん。 なんとなく出来るだけではダメなんです。 人と同じ積み重ねをしていかねばいつか困るのは横島さんなんですからね。」

横島の奇跡のような成長は前世からの運命に導かれたのかもしれないと魔鈴は思う。

しかし前世からの運命はアシュタロスとの決着により終わったのだ。

ならばこれから横島は人として普通に積み重ねをしていかねばならないというのが魔鈴の考えである。

そしてそれは魔鈴自身も天才と言われた経験からも言えることだった。

まあこの先横島が霊能を捨てるなら構わないのだが、横島の性格上何かあれば再び戦場に戻るだろう。

だが起きるか起きないか分からない奇跡をあてにするつもりは魔鈴にはなく、その時になり横島が力を発揮出来る下地を今のうちに作らねばならないと思うのだ。


「雪之丞さんにしても白竜会で三年ほど修行したというじゃないですか。 横島さんにはまだ早いですよ。」

実際横島は霊力コントロールは得意なようで技術的に言えばすでに基礎は習得してはいる。

しかし魔鈴は早すぎる成長には危機感を感じてならない上、横島の問題は技術や才能に追い付いてない精神的な面だとの理由もあった。


「同じ修行しても成果はそれぞれ違うからな。 白竜会で言えば陰念は何をやっても半端だったが、勘九郎は恐ろしいほどよく出来た。 俺が今もこうして生きてるのは勘九郎ほど才能がなかったからかもしれん。」

そんな横島と魔鈴のやり取りを近くで魔法の勉強をしている雪之丞は面白そうに眺めていたが、魔鈴の白竜会の発言に少し思うところがあったのか昔の仲間の才能の話を始める。

雪之丞自身は客観的に横島ほど才能があるとは思ってなく、せいぜい陰念以上勘九郎未満といった評価だ。

自分よりも才能があった勘九郎はそれ故に魔の力に魅いられてしまったし、才能がなかった陰念は魔の力で身を滅ぼした。

特別心情や理想が違った訳でもない連中だっただけに、積み重ねを大切にする魔鈴の言葉が雪之丞の胸に響いていた。


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