ゆく年くる年・2
同じ日唐巣の教会には少し意外な人物が訪れていた。
「何か相談事でもあるのかい?」
六道女学院の制服を着て少しうつむき気味に唐巣に頭を下げたのは弓かおりだった。
少し意外な来客ではあるが長年教会の神父として人々を迎えている唐巣は、来客の様子から相談事なのか除霊なのかなんとなく区別がつくようになっている。
かおりの様子は何か悩みを抱える相談者と同じに唐巣には見えていた。
「私の実家は闘竜寺という除霊も行ってる寺なのですが、私は当然のように後継ぎとして育てられ私自身もそれが当然だと思っていました。 しかし最近それでいいのかと考えてしまうんです。」
唐巣がかおりと直接話すのは横島の卒業パーティ以来だが、臨海学校の際にも少しは顔を見ている。
あの卒業パーティの後のかおりと魔理のことを唐巣は少し気にしていて、六道冥菜と時々その後の様子を話すことがあった。
元々中途半端なプライドでいきがっていた魔理と対称的に、かおりはあの件を前向きに受け止めそれなりに消化し乗り越えたと周囲は見ていた。
しかしかおりの中ではGSや霊能者に対する疑問というか、現状の世界そのものに対してどうしても納得が出来ない部分があったようである。
「闘竜寺に関しては私も知っているし君のお父さんとも何度か会ったことがある。 とても立派な人だと私は思うよ。」
かおりが何に対して悩み迷っているのか唐巣はすぐに理解した。
アシュタロスの一件とその真相を知ったかおりは、オカルト業界そのものにというか自身が信じるべき御仏すら信じていいのか疑問に思うのだろう。
世界を救ったのは見習いGSと敵であるはずの魔族だった。
では神は仏は?
あの事件の最終盤、究極の魔体からの最後の攻撃から東京を守った存在を目撃した人は意外に多い。
アシュタロスを倒したのは美神親子を中心とした人間のGS達であるが、本当に世界を救ったのは神々であるとの噂はオカルト業界の一部や宗教界において語られてることなのだ。
しかもそれぞれの宗教において都合よく解釈されたその噂は、近年宗教離れが問題となっていた宗教界では格好のチャンスだと捉えられている。
実際東京を救ったのは神魔の最高指導者なのだからそれはあながち間違いではないが、現状ではそれを人間達がそれぞれの都合により勝手に解釈して使っているのだからかおりが悩むのも無理はない。
現実問題として最高指導者の存在は高位の神か魔が降臨したとしか報告書には記載されておらず、それが誰かは元より何をしたのかも一切報告書には記載されていない。
まああまりにデリケートな問題のため何も記載出来なかったというのが真実であり、当事者である唐巣達にしても最後の最後までアシュタロスに出し抜かれてなにもしてないとは言えるはずがなかった。
結局は美神親子がアシュタロスを倒したというのが世間一般の認識であるものの、一部には美神親子は神々の力を借りてアシュタロスを倒したのだと語る宗教関係者は意外と多い。
かおりの父はそんな根も葉もない話しはしないが、実際にかおりが悩むのは仕方ないことだと言える。
「君の参考になるかは分からないが、少し私の昔話をしようか。 みんな私を神父と呼んでくれているが、実は私は正式には神父ではなくただの真似事なのだよ。 もう二十年以上も前になるが、私はとある除霊の為に教会で禁止している異教の儀式を勝手に執り行って破門された身でね。」
少し不謹慎かとも思うがかおりの迷いや悩みは唐巣にとっては懐かしいものだった。
そしてGSにとってそれは誰もが突き当たる壁の一つでもある。
人の価値観や常識など通用しない世界と向き合うGSは常に疑問や矛盾を抱えて行かねばならないのだから。
悩むかおりの若さが少し羨ましく感じた唐巣は、そっと目を閉じると昔のことを語り始めた。
今の若いGSは唐巣が教会に破門された事実を知る者は少ないがある程度の年齢より上のオカルト関係者ではそれなりに有名な話であるし、かつて教会に破門された唐巣を拾ったのが六道家だという過去がある。
「何か相談事でもあるのかい?」
六道女学院の制服を着て少しうつむき気味に唐巣に頭を下げたのは弓かおりだった。
少し意外な来客ではあるが長年教会の神父として人々を迎えている唐巣は、来客の様子から相談事なのか除霊なのかなんとなく区別がつくようになっている。
かおりの様子は何か悩みを抱える相談者と同じに唐巣には見えていた。
「私の実家は闘竜寺という除霊も行ってる寺なのですが、私は当然のように後継ぎとして育てられ私自身もそれが当然だと思っていました。 しかし最近それでいいのかと考えてしまうんです。」
唐巣がかおりと直接話すのは横島の卒業パーティ以来だが、臨海学校の際にも少しは顔を見ている。
あの卒業パーティの後のかおりと魔理のことを唐巣は少し気にしていて、六道冥菜と時々その後の様子を話すことがあった。
元々中途半端なプライドでいきがっていた魔理と対称的に、かおりはあの件を前向きに受け止めそれなりに消化し乗り越えたと周囲は見ていた。
しかしかおりの中ではGSや霊能者に対する疑問というか、現状の世界そのものに対してどうしても納得が出来ない部分があったようである。
「闘竜寺に関しては私も知っているし君のお父さんとも何度か会ったことがある。 とても立派な人だと私は思うよ。」
かおりが何に対して悩み迷っているのか唐巣はすぐに理解した。
アシュタロスの一件とその真相を知ったかおりは、オカルト業界そのものにというか自身が信じるべき御仏すら信じていいのか疑問に思うのだろう。
世界を救ったのは見習いGSと敵であるはずの魔族だった。
では神は仏は?
あの事件の最終盤、究極の魔体からの最後の攻撃から東京を守った存在を目撃した人は意外に多い。
アシュタロスを倒したのは美神親子を中心とした人間のGS達であるが、本当に世界を救ったのは神々であるとの噂はオカルト業界の一部や宗教界において語られてることなのだ。
しかもそれぞれの宗教において都合よく解釈されたその噂は、近年宗教離れが問題となっていた宗教界では格好のチャンスだと捉えられている。
実際東京を救ったのは神魔の最高指導者なのだからそれはあながち間違いではないが、現状ではそれを人間達がそれぞれの都合により勝手に解釈して使っているのだからかおりが悩むのも無理はない。
現実問題として最高指導者の存在は高位の神か魔が降臨したとしか報告書には記載されておらず、それが誰かは元より何をしたのかも一切報告書には記載されていない。
まああまりにデリケートな問題のため何も記載出来なかったというのが真実であり、当事者である唐巣達にしても最後の最後までアシュタロスに出し抜かれてなにもしてないとは言えるはずがなかった。
結局は美神親子がアシュタロスを倒したというのが世間一般の認識であるものの、一部には美神親子は神々の力を借りてアシュタロスを倒したのだと語る宗教関係者は意外と多い。
かおりの父はそんな根も葉もない話しはしないが、実際にかおりが悩むのは仕方ないことだと言える。
「君の参考になるかは分からないが、少し私の昔話をしようか。 みんな私を神父と呼んでくれているが、実は私は正式には神父ではなくただの真似事なのだよ。 もう二十年以上も前になるが、私はとある除霊の為に教会で禁止している異教の儀式を勝手に執り行って破門された身でね。」
少し不謹慎かとも思うがかおりの迷いや悩みは唐巣にとっては懐かしいものだった。
そしてGSにとってそれは誰もが突き当たる壁の一つでもある。
人の価値観や常識など通用しない世界と向き合うGSは常に疑問や矛盾を抱えて行かねばならないのだから。
悩むかおりの若さが少し羨ましく感じた唐巣は、そっと目を閉じると昔のことを語り始めた。
今の若いGSは唐巣が教会に破門された事実を知る者は少ないがある程度の年齢より上のオカルト関係者ではそれなりに有名な話であるし、かつて教会に破門された唐巣を拾ったのが六道家だという過去がある。