ゆく年くる年・2

「読んだら廃棄してください。」

「ええ、分かってるわ。」

昼食後タマモはちょっと買い物に行ってくると店を出ると、近所の小さな児童公園にて人に化けたジークと会っていた。

金髪のイケメンに化けたジークは公園の木陰ですれ違い様にタマモに書類の入った封筒を密かに渡すと、一言だけ声をかけて見知らぬ他人のように離れていく。

タマモは周囲に人の気配がないのを確認すると公園のベンチに座り封筒の中の書類に目を通していった。


「どうしようもないわね。 人間って。」

冬の冷たい風の音にかき消されそうなほど小さな声でぽつりと呟くタマモが見ていたのは、ザンス王国過激派によるテロ計画の現状とそれに対応する為に動いてる人々の現段階での対応の詳細である。

小竜姫達に協力することにしたタマモから小竜姫達に情報が渡るように、小竜姫達からもタマモには横島達絡みの情報が逐一提供されていた。

ザンスの一件の報告書はこれで二度目であり、今回は百合子が六道家の協力を取り付けたことなどが書かれている。

ただザンス国内の現状は酷いもので国王を中心とした改革派と改革に反対する王族や貴族の保守派は今も国内で政争をしているらしい。

そもそもかつて横島達が巻き込まれ今また巻き込まれているザンス王国暗殺計画の本質は宗教上のタブーを犯す改革ではなく、王国が保持する精霊石の莫大な利権とそれを得られる王位にある。

つまり今回の一件の本質も元をたどればただの利権争いに過ぎない。

暗殺を計画してる過激派は保守派の一部と関わりあり複雑な歴史や力関係が問題をややこしくしていた。

その結果小竜姫達からは横島と魔鈴がこれ以上ザンス王国に関わらないようにそれとなく釘を刺してほしいとの要請も来ていて、タマモは横島と魔鈴の様子を注意深く見守っている。


「全く……。」

書類を全て読み終えたタマモは人目がないのを確認すると書類を封筒ごと狐火で燃やしてしまい、燃えカスは風に飛ばされて散ってしまう。

ため息混じりに飛ばされていく書類の燃えカスを見つめていたタマモは、ザンス王国の厄介さに思わず記憶の奥底に眠る前世の記憶が疼く気がした。

遥か過去のはずの前世のうっすらとした記憶が人間の本質は昔と同じだと語りかけてくる。

ザンス王国の行方など興味がないタマモは、いかにして横島達とザンスを離すべきかと考えながら公園を後にしていく。


「これは美味しいでござる!」

その後タマモは本でも買って帰ろうと店のある商店街を歩くが、どこからともなく聞き覚えのある声が聞こえたので視線を向けると精肉店の前では尻尾をブンブンと元気に振っているシロの姿を見つける。


「おっ、そうか。 じゃ明日はこいつを売り出してみようか。」

どうやらシロは精肉店の惣菜を味見させて貰ったらしく、上手そうに揚げ物を頬張っていた。


「犬じゃん」

「むっ! 誰でござるか!? 拙者は人狼族の……ってタマモでござったか。」

それはまるで餌付けされる犬のようだとタマモはしみじみと思いついつい余計な一言を口に出してしまうと、かなり離れていたのにも関わらずシロには聞こえたようで貰った揚げ物を片手に走ってくる。


「あんたね。 普通は味見って二つも三つも食べないのよ。 ちゃんとお金払いなさいよ。」

「拙者は払うつもりで出すんでござるが、受け取ってもらえないんでござるよ。」

いつの間にか商店街の人気者になってるシロはあちこちの店で餌付けされてるらしい。

タマモも商店街の人々とは結構馴染んでるが、タマモの場合は普通に遠慮をすることもシロは遠慮をしないところが余計に商店街の人々にシロが人気の原因でもあった。

結局二人は相変わらず言い争いしながら魔鈴の店に帰るが、そんな二人は近所の商店街では一種の風物詩になっている。
7/13ページ
スキ