ゆく年くる年・2

「またとんでもない爆弾持ってきたな。 百合ちゃん。 今度テロを防げなかったらシャレにならんぞ。 内閣がぶっ飛ぶだけじゃ済まないだろうな。」

一方小竜姫の訪問から数日過ぎた百合子はすでにザンス過激派によるテロ計画阻止の為に動き出していた。

ただ今回の件ばかりは流石の大樹と百合子も手に負えない問題であり、タマモの件で世話になった昔なじみの政治家に真っ先に話している。


「証拠はないけど、どうにか動いてくれないかしら?」

「ザンスは政府内にも過激派に理解を示す連中が居るらしい。 国王と側近は穏健派だが、国王の対外政策は内部にかなりの不満があるという噂だ。 仮にテロ計画を阻止するにしてもザンス政府はあてには出来ない。 下手すると情報が漏れるからな。 やるなら日本単独で阻止しなければならないが……」

百合子が小竜姫から得た情報は過激派の主要メンバーからテロ実行予定者のリストに加えて具体的な計画が三つほど練られていて、最終的にどの計画を実行するかは不明であった。

もしかすると小竜姫から追加で情報が貰える可能性もあるが、小竜姫が表だって動けぬ以上は現状の情報だけの可能性が高い。

何より百合子の話は何一つ証拠になるようなものはない。

しかし昔なじみの政治家は証拠の件には一切触れずに、政府が前回のテロ事件絡みで得たザンス国の内情を百合子に説明し始める。


「やっぱりオカルトのプロが必要よね。」

「オカルトGメンは信用ならんし、GS協会は情報漏れが心配だ。 六道に直接頼むしかないだろう。 日本のオカルト業界で唯一国益の為に動いてくれるとしたら六道しかない。 それに六道ならばGS協会もオカルトGメンも上手く使える。 ただしそれでも土産は必要だろうな。」

現状を考えると政府としても対処を見当しなければならないが、問題は日本政府にも各省庁にもオカルトの専門家は居てもプロは居ない。

いわゆるオカルトを学問として勉強した官僚や政治家は居てもプロのGSになれるほどの霊能者は皆無だった。

実際には政府が主体となり極秘で動くことになるだろうが、どうしてもオカルトのプロの協力が必要になる。

しかしここでややこしいのは、本来はこの手の問題を解決する為に居るはずのオカルトGメンが政治家にとって全く信用ならないことだろう。

仮にオカルトGメンが立場を弁えても政府内や各省庁にはオカルトGメンへの不振があるので上手く協力出来るか不安が残る。


「やっぱり六道の力が必要なのね。」

「百合ちゃんは昔から閉鎖的で非効率なオカルト業界が好きじゃなかったからな。」

「経済面から考えればね。 ただし身内が業界に関わってからは少し見方が変わったわ。」

結局オカルト業界で一番信用出来るのは六道家だと語る昔なじみだが、彼は元々百合子がオカルト業界が好きではなかったことを思い出していた。

実は百合子は元々閉鎖的で非効率な日本のオカルト業界に批判的であった。

特に経済面から考えると問題だと考えていたが、横島の一件で関わって以降少し考えが変わったている。


「六道には私が行くわ。 顔見知りだしね。」

「今日の話は総理の耳には入れるぞ。 流石に俺の手には余るこらな。 その代わりこっちは絶対に動かしてみせる。 名目上の責任者は総理で構わないだろ?」

「ええ、出来れば私のことは総理で止めてもらって。 その代わり情報源の功績は政府のものとしていいから。」

最終的に百合子と昔なじみはこの問題を対処する形まである程度話し合うが、百合子は最後まで自身の情報源を明かさなかったし昔なじみも尋ねることはなかった。

実のところ極秘の情報に関しては情報源の解らぬものが決して珍しい訳ではないし問題は情報の信頼度であるが、こちらは百合子自身の信用でなんとかするしかない。

ただ百合子は過去の実績以外にも近年ではアシュタロス戦の前に帰国した際にはザンス過激派の飛行機ハイジャックを阻止した実績もあり、百合子にはザンス絡みで情報源になる何かがあると考えられなくもない。

まあどのみちテロ情報がある以上はそれを無視することは政府には出来ないだろう。

仮に空振りに終わっても犠牲がなくザンス国王来日が上手く行くならば問題はないのだ。

ともかくザンス過激派のテロ阻止に向けた動きは着実に進んでいた。
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