ゆく年くる年・2

さて正月明けの魔鈴の店は完全に平常営業に戻っていた。

最近は新年会の団体客が入る日もあり、相変わらず順調そのものである。

タマモの料理の腕前やシロの接客など成長著しい二人はクリスマスや年末年始を経て更に成長した様子もあって、レストラン営業に関しては日に日に魔鈴の負担が減っていた。

そして横島とシロの料理修業も地道ながら進めていて、仕込みや賄いなどで日々練習を重ねている。

次に魔鈴の除霊に関してだが、こちらは魔鈴の方針により雪之丞が一人で調査や除霊を行うことが更に増えていた。

元々魔鈴が受ける依頼は危険性が低いということもあり、とりあえず雪之丞が行き必要ならば魔鈴が再度調査や除霊に向かうスタイルに変わりつつある。

現状では今年に入ってからは雪之丞が調査や除霊を行い魔鈴が事後の最終確認とアフターケアをする形でそれなりに上手く行っていた。

正直GSとしてはまだまだ学ぶべきこともあるが今の段階でもすでに一般的なGSと比べて知識が特別欠けていると言えるほどではなくなっていて、今後は経験を積むことも重要になる。

更に雪之丞の最大の問題だった依頼人との対人関係であるが、こちらもそれなりに成長していて女性の依頼人に対する気配り不足など問題はまだまだあるが男性の依頼人とは逆に上手くいくケースなども増えていた。

ただこちらは依頼人との相性もあり一概に評価をすることは難しいのだが。


「そうですか。 決めたんですね。」

「ああ、俺に魔法を教えてくれ。」

そんな正月明けて数日したこの日横島達はお昼のランチタイムを終えて昼食を採っていたが、雪之丞が少し改まった表情になり魔鈴に魔法を教えて欲しいと口にした。

魔鈴の魔法に関してはGS試験時に西条に対して発言してから何度か軽く話すことはあったが、魔鈴も雪之丞自身もGSとしての勉強を優先させた為に今までどうするのか決めてなかった。

ただ雪之丞はそろそろ将来を真剣に考える時期であり、独立やより高いレベルでのGSを目指す為にエミの事務所への移籍も選択肢として魔鈴は以前に提案している。

そしてずっと考えていた雪之丞の答えは魔鈴の魔法を学ぶことだった。


「分かりました。 では今夜からはそちらの勉強も始めましょう。」

その答えに魔鈴は静かに雪之丞を見つめると少し嬉しそうな表情を見せる。

タマモも魔法料理を覚え始めたが雪之丞もまた自分の技術を受け継いでくれることは素直に嬉しかったのだ。

現状でも雪之丞は超一流と言える実力があるだけに、その決断は見方によっては無謀とも中途半端とも見えるかもしれない。

雪之丞にはこのまま普通のGSとしてトップを目指す道も決して不可能ではなく、単純な可能性で言えば魔鈴の魔法を苦労して覚えるよりもそちらの方が成功する可能性は高いだろう。

しかし雪之丞は更なる自分の可能性にチャレンジして見たかったのだ。

これは魔鈴は以前から感じていたが、ストイックに一つの道をただひたすら極めようとする雪之丞は案外魔法に向いてるかと思っている。

まあ魔鈴と同じスタイルにはならないのはすでに明らかだが、魔鈴は雪之丞が中世以前の魔女や魔法使いが後生に残した精神や理を一部だけでも継いでくれればいいと考えていた。

正直魔鈴自身も中世以前の魔女の全てを継承してる訳ではないし、それは時代と共に変化するものだとも考えているのだ。


「雪之丞が魔法使いか。 微妙にイメージは合わないな。」

「別におかしなことではありませんよ。 魔女や魔法使いも当然ながら個性はありましたし、戦う力や攻撃魔法に主体を置いた者も居たようですからね。 残念ながらそちらはほとんど資料がないので私もあまり詳しくはありませんが。 極論を言えばカトリックの教えからはみ出した霊能者は全て魔女や魔法使い扱いされましたしね。」

一方横島とタマモとシロは雪之丞の決断を冷静にうけとめていたが、横島としてはどうしても雪之丞が魔法を使うイメージが湧かないらしい。

まあ横島の魔女や魔法使いのイメージは魔鈴か、かつて中世で会った変態魔族のヌルなので仕方ないのだが。

ただ魔鈴は雪之丞ならば自身とは違うスタイルの魔法使いになれるかと期待もしてるようだ。

何はともあれこの日から雪之丞は魔鈴の魔法の正式な後継者になることになった。

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