ゆく年くる年・2

一方新年も七日を過ぎておキヌの冬休みが終わった頃になると令子はようやく仕事を再開していた。

相変わらずの大名商売だが令子の場合は抜群の知名度と実力があるのでほっといても仕事が尽きることはない。

加えて依頼人に必要以上に踏み込まない令子の姿勢は、意外とと言っては失礼だが評価され気に入る顧客もそれなりにいる。

相手の氏素性は元より依頼の内容に関しても一切余計な詮索をしない令子は特に一流企業や法人なんかには受けがいい。


「ここなんですが……」

「ご心配なく。 今日中に終わらせますわ。」

そんな仕事始めをした令子だが、この日は例によって一流企業の依頼による廃工場の除霊だった。

最近はおキヌも神通棍や霊体ボーガンなどの一般的な攻撃系アイテムにも慣れて来たので、令子がサポートに回っておキヌ主体の除霊も増えていて今日もおキヌ主体で除霊を行う予定である。

横島が去って以降は二人の絆が深まったこともあり、令子は以前と違いおキヌに決め細やかな指導をしていた。

その指導の様子や方法がかつて令子が呆れた唐巣の指導法に似ているのは令子自身気付いてないが。

皮肉なことだが横島を失って以降の令子は指導者として一皮向けて成長している。


「さて、始めましょうか。 いつも通りで構わないけど、今日の相手は強いわよ」

「はい、大丈夫です」

そしてかつてのように荷物を大量に持ってくれる存在が居ないことで、明らかに令子の除霊スタイルは変わっていた。

武器や霊具は自分の持てる範囲でなくてはならなく、その分だけ事前の調査を強化していたし現地に入ってからは入念に除霊前の調査を自分でも行うようになっている。

それはGSとして当たり前の姿ではあったが、もし横島が見れば驚き絶句するだろう。

正直横島が考えるほど令子は強くもなく身勝手でもなかった。


「そう言えば、春から六道女学院にGS予備校が出来るそうですよ」

「へー、おばさまも考えたわね」

そんな二人だが依頼人とのやり取りが終わり現地で事前調査を始めた時に、おキヌはふと今日の始業式で聞いたGS予備校の話を令子に教えていた。

おキヌ自身はイマイチその価値を理解してなかったが、GS専攻のクラスメート達は結構騒いでいたのだ。


「GSになるのに一番難しいことの一つは、いかにして自分に合ったいい師匠を探すかだもの。 いくら才能があってもダメな師匠や合わない師匠だと大成しないもんなのよ。 少しでも学校で教える期間を伸ばした方がGSになれる確率が上がることは確かよ」

おキヌの話に感心したような令子はGS予備校の存在意義を語ると、おキヌも少しは思い当たる節があるようで感慨深げに令子を見つめる。

正直美神令子の弟子だと羨ましがられることは今でも多く、魔理なんかが就職先のGS事務所が決まらず悩んでることを知っているだけに思うところがあった。


「一文字さんはまだ就職先が決まらないから悩んでますけど、そんなクラスメートは何人か居るんですよね」

「彼女の場合はスタイルが極端だものね。 一般的に見て不良に代金払って除霊なんて頼まないわよ。 まあ一番問題なのは他人に文句を言わせないだけの実力がないことなんだけど。 仮に実力があればスタイルの違いなんて関係なくなるわよ」

友人である魔理のことをおキヌはずっと心配している。

おキヌ自身も万全とは言えないが突然人が変わったように努力し始めた友人を心配しないはずがなかった。

内心では令子に魔理を雇って欲しいとも思う気持ちがあるが、それが無理なのはおキヌもよく理解している。

そんなおキヌに令子は時々アドバイスをするが、結局は魔理の実力不足でありその辺りは魔理のスタイルを理解する令子故に厳しい。

そもそも令子とて最初から完璧だった訳ではなく努力は当然ながらしたのだ。


「さあ始めるわよ。 今は仕事に集中しなさい」

結局おキヌはモヤモヤとした気持ちを抱えるが、令子はそんなおキヌを心配しつつも気持ちを切り替えさせて除霊を始めることになる。

おキヌの欠点である精神的なモノを令子は令子なりに克服させようてしていた。

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