ゆく年くる年・2

それから数日が過ぎて冬休みが終わった六道女学院ではちょっとした騒ぎになっていた。

三学期の始業式であるその日、六道女学院では今年の四月から学院の卒業生を対象にしたGS予備校を開校すると正式に発表したのだ。

通常は六道女学院の卒業生でもGS専攻の卒業生は卒業と同時に所属するGS事務所を決めるのが一般的だが、成績や才能を問わず一般家庭の卒業生のGS事務所就職率はお世辞にも高いとは言えない。

まあ以前にも少し説明したが一般家庭の生徒の大半は三年生になる前にGS専攻から業界への就職に切り替える者が多いのだが。

そもそも一般家庭の生徒のGS志望の低さの原因は基本的には最難関と言われるGS試験の合格率の低さにあるが、学校としての原因もあり六道女学院の霊能科でさえ授業だけでは修業時間がまるで足りないとの厳しい現実がある。

当然ながらオカルト業界にツテがある生徒は幼い頃より修業することもあるし、修業とまではいかなくても基礎的な霊力トレーニングや知識の勉強は当然として高校入学前に行っていた。

一部の天才的な才能の持ち主は別にして一般的な霊能者では費やさした時間こそが実力を上げる一番の近道であり、入学前に着いた実力差を三年の在学中に縮めるのは並大抵の努力では不可能なのだ。

結果として三年で間に合わないGS浪人が六道女学院の生徒でも結構多い。

基本的にGS試験は十代で免許取得出来るのはほんの一握りで大半は二十代前半での免許取得を目指し、長い人だと三十まで粘る霊能者も割りといる。

そんなGS浪人の霊能者は基本的にはGS事務所や宗教系GSの元で修業を積みながら働くことになるが、才能ある者はともかく底辺近いGS浪人の待遇は決して良くはない。

この辺りもまた業界に親兄弟か親戚、せめて知人でもいれば苦労を理解してるのでまだマシな環境で働けるが業界に知人も居ない一般人のGS浪人の待遇はお世辞にも良くはなかったのだ。

ただしこの場合は雇うGSの側も決して悪気があるとは言えなく、苦労してる場合が多々あったが。

実のところ令子や魔鈴のようなGSはそんなGSから見ると次元の違う存在である。

今回のGS予備校に関してもどちらかと言えば、そんな一般家庭の霊能者を少しでも業界に残そうという六道冥菜の苦心の一手だった。

横島の引退や一文字魔理の卒業間近になってからの行動など、冥菜にとっては考えさせられることが多かったことも影響しているが。



「一文字、これ受けてみるか?」

そんな訳でちょっとした騒ぎになった始業式も終わりこの日は午前授業なため多くの生徒が帰っていく中、魔理は始業式で発表されたGS予備校の試験を受けないかと担任の鬼道に誘われていた。


「はっきり言うと一文字は卒業までには間に合わんのや。 もちろん努力は認めるが、そもそも努力というならみんなしとるんや。 氷室は特殊やからアレやけど弓がどれだけ修業してるかお前も分かってるやろ」

シロに圧倒的な実力を見せつけられ魔鈴にダメ出しされてから魔理は生まれて始めてと言っていいほど死に物狂いで修業や勉強をしてきたが、やはり本来は三年をかけて学ぶべき内容を僅か数ヶ月の学校の授業の合間に覚えて修業していくなど不可能だった。

冬休みも正月返上して勉強もしたが、現状だと必ずしも成果は出てなくこのままでは修業も勉強も中途半端になってしまう。

実のところ鬼道も随分と考えたらしいが他には方法がなかったようだ。

仮に魔理がもう少し前からオカルトに真面目に向き合っていたらまた違ったのだろうが、ヤンキー崩れでろくな知識のない見習いなど雇ってくれるGSは居るはずがなかった。

ましてGSは危険もあれば大金や高価な霊具を扱うのだから、信用出来ないような人間は一番嫌がられる。

まあ鬼道自身にもう少しオカルト業界にツテがあればこれまた違った選択肢も用意してやれたのだろうが、父親のこともあり鬼道自身がオカルト業界では頼れる人や頼める人は居なかったのだ。


「答えはすぐでなくてもええけど、一文字は不器用やしこれ以上いい条件で修業出来る環境はないと思うで。」

一方GS予備校の案内のパンフレットを渡され、突然修業が間に合わないと言われた魔理は素直に動揺していた。

時間がないのも無謀なのも理解はしていたが、具体的にあとのことを考えていた訳ではないのだ。

結局、この日は話を聞いただけに終わりいつものように夜まで修業に励むが魔理の表情は終始冴えなかった。



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