ゆく年くる年

さてそんなこの日も夜になると雪之丞が帰って来ていた。

年明けて三日の夜になる今夜はおせち料理も最後となり、一緒に昨年のクリスマスにパピリオから貰った竜神族の御神酒を飲むことにする。


「相変わらず神々しいな」

古い洋風建築である異界の魔鈴宅にあまり似つかわしくない仏壇に御神酒はクリスマスからお供えされていたが、あれから十日近く過ぎた現在も神々しい光を放っていた。

まあ本来は人間に与えていいものではないので当然ではあるが。


「それじゃ乾杯しましょうか」

とても貴重な物であり効果も凄そうなのでこの日は日頃お酒など飲まないシロとタマモも少し飲むことにしたのだが、白い陶磁器製の御神酒の蓋を開けるとやはり眩いまでの光が溢れだしお酒のいい香りがしてくる。

御神酒用にと用意した盃に魔鈴が一つずつ御神酒を注いでいくと、そのあまりの神々しさと見ただけでも分かる神気に誰もが言葉すら出て来ぬままゆっくりと飲む。


「これは……」

一口御神酒を口に含み飲んだ魔鈴はその味や香りに驚いてしまう。

原料は恐らく米類のようだが、当然ながら既存の日本酒などとは味や香りの次元が違った。

しかもたった一口飲んだだけで体というか魂から活性化するような感覚を感じてしまうのだから。


「おい、こいつは……」

「力が沸いてくるでござる!」

体が活性化するのは魔鈴の魔法料理でも多少なりとも効果があるが、魂や霊体が活性化するのは魔鈴ですら初めての経験であり雪之丞とシロは自身の霊力が自然と体内から沸き上がってくるのに驚きの声をあげる。

そしてそれは当然ながら横島や魔鈴やタマモも同じであり、特に魔鈴はあまりの効果に絶句していた。


「私まで霊力が活性化して霊力値が上がってるような……」

横島達はまだ成長期なので神聖な御神酒の効果で魂や霊体が活性化すれば霊力値が上がっても不思議はないが、すでに成長期を終えたはずの自分が今までに感じたことがないほどの力を自らに感じると魔鈴は驚きのあまり信じられないような表情をしている。


「御神酒とは相性があるの? それとも眠っていた潜在的な力が解放された?」

正直一口飲んだだけで霊力値が上がるような代物を人間に与えるのは危険だと感じる魔鈴だが、予期せねタイミングで自身の力が上がった訳を一人考えぶつぶつと独り言のように呟いてしまう。

しかしこれがルシオラ復活に苦悩する横島と魔鈴への天龍童子とパピリオからのせめてものプレゼントだとは横島も魔鈴も気が付くことはなかった。


「 ちょっと試してくる」

「拙者も行ってくるでござる」

そのまま魔鈴は御神酒の効果を考え込み周りが見えなくなるほど集中してしまうが、雪之丞とシロは効果をすぐに試してみたいと外に出て行ってしまう。


「全くあいつらは…、それに魔鈴さんも聞いてないみたいだしそんなに騒ぐほどのことか?」

「そりゃ飲むだけで霊力が上がるなら誰だって騒ぐわよ。 GSだって妖怪だって欲しい人は山ほど居ると思うわ。」

結果として平然としてるのは横島とタマモのみだったが横島は御神酒の効果は実感するもその価値を理解してなく、タマモは相変わらず冷静なだけである。

まあ横島にとって霊力の上昇自体はさして珍しいことではなく、何かのきっかけでよくあっただけにいまいち価値を理解出来てないのも無理はないが。


「そんなもんか?」

「効果には個人差もあるみたいね。 横島と雪之丞はそうでもないみたいだけど、私とシロと魔鈴さんは結構効果が大きいみたい。 私は少しだけど霊波の質も上がったかも」

外からはシロの騒ぐ声が微かに聞こえるが魔鈴はまだ考え混んでいて周りが見えてなく、横島とタマモは一足先に夕飯を食べ始めるがタマモいわく効果は個人差があり横島と雪之丞は効果が小さいらしい。

結局魔鈴が冷静に戻りシロと雪之丞が戻って来るまで十五分ほど掛かることになる。

ちなみに御神酒はあまりの効果にもったいないので最初の一杯以外は、大切に飲む為に当面保存することになった。

正直魔鈴としては研究して自身の魔法に役立てたいとの思いもあったようだが。


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