ゆく年くる年

その後二人は一旦自宅に戻り着替えを持ってスポーツジムに向かった。

魔鈴としてはおよそ十ヶ月ぶりのジムであるが、横島は当然ながら初めてである。


「俺も身体を鍛えようと考えたことあるんっすよ」

「女の子にモテたいからですか?」

初めて来たスポーツジムに横島は興味津々な様子でキョロキョロとするが、ふと自分も以前に身体を鍛えようとしたことがあると口にした。


「ハハハ……」

珍しく横島から前向きな話を聞いた魔鈴だったが、最早考えるまでもなくその目的を見抜いてしまう。

横島はそんな魔鈴の言葉に少し冷や汗を流しながら笑ってごまかすが、事実なだけにそれ以上言葉が続かない。


(十分モテていたんでしょうに……)

正直魔鈴は横島の過去のモテたいとの強い欲求の話は何度聞いても複雑な心境になる。

もし仮に本当にモテなかったのならまた違ったのだろうが、魔鈴が知ってるだけでも何人かは確実に横島に好意を持っていたのだ。

そもそも魔鈴が横島と恋人になれたのは偶然と奇跡が重なったようなものなのだから。


「もし横島さんがモテてたら、私との関係はどうなってたんでしょうね?」

「そりゃもちろん魔鈴さんに真っ先にアプローチしますよ」

時々魔鈴は考えてしまうことがある。

もし横島と令子の関係が上手くいっていたら自分は二人の間に入って行けただろうかと。

そんなあったかもしれない未来を想像しつつ、魔鈴は横島がもう少し自分に自信を持っていたらどうなったのだろうと考えると何故か笑ってしまう。


「そうですね。 でも多分そうなっていたら、それは私が横島さんを誘惑した結果かも知れませんよ」

思わずクスクスと笑みをこぼす魔鈴は調子のいい答えをする横島を愛しそうに見つめる。

美神令子と横島は前世からの縁があり、彼女の横島への愛情は恐らく並大抵では入り込めぬほど強く深かったのだろう。

だがそれでも彼女は周りが呆れるほどのあまのじゃくで素直になれない弱点がある。

自分は魔法では令子に負けない自信はあるが同時にGSとしては令子には敵わないだろう。

しかし横島を愛して求める気持ちだけは絶対に負ける気はない。


「まさか~」

「あら、好きな人を手に入れる為なら私だって誘惑くらいしますよ」

少し妖艶にも見えるような愛しそうでありながらも意味ありげな笑みを浮かべる魔鈴に横島は少し押され気味になるが、魔鈴は決して待ってるだけの女でないと横島も理解している。

日常においても魔鈴はどちらかと言えば積極的であり、夜の生活に関しても恥じらいはあるものの積極的でもあった。


「ルシオラといい、魔鈴さんといい女は強いっすね」

そして横島はもし違った形で魔鈴と出逢っても自分は魔鈴に惚れただろうと思う。

あの短い間にルシオラに感じた女の強さや美しさと同じモノを横島は魔鈴からも常に感じているのだ。


「さて始めましょうか。 横島さんは男性ですから私に負けたらダメですよ。 きちんとやらないと……」

しばらく話をしながら準備運動をしていた二人だったが、魔鈴は横島が手を抜かないように意味ありげな言葉でやる気を出させていよいよ運動を始めることになる。




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