ゆく年くる年

正月も三日になると魔鈴の店のある商店街でも営業してる店が多く、正月休みの人々で商店街は結構賑わっていた。

横島と魔鈴は商店街の顔なじみの人達と挨拶を交わしながら歩いていく。


「何処行くんっすか」

「そうですね……。 少し普段行かない場所にでも行ってみましょうか」

自然と腕を組むような形になった二人だが、流石に横島も最近は過度に緊張はしなくなっていた。

今では一緒に居ることが当たり前になっているし、女性というか魔鈴にもいい加減慣れたということもある。

ただ当然のように感じる魔鈴の温もりと吐息に、興奮ではなく心地よさを感じるようになった自分が横島は少し信じられない心境だった。

まあ一般的な見方をすれば、付き合ってもうすぐ一年になるのに慣れない方がおかしいのだが。


「げっ……」

そのまま慣れ親しんだ地元を離れた二人は、ブランド物の店が多いところにたどり着いていた。

目的は今年の三月にあるザンス国王訪日の際に出席するパーティーに着て行くドレスを探しに来ている。

とりあえず今日すぐに買う訳ではないが、魔鈴も首相主催のパーティーなど経験がないので当然ながらドレスなど持ってない。

冷やかし程度に店を見て歩きたいとブランドショップに入ってみるが、横島はその値札を見て何度も目を擦りながら顔色を青くしていた。


「経費かなんかで落ちないんっすかね」

「流石に無理だと思いますよ。 厳密に言えば仕事ではないですし」

基本的に量販店しか行かない横島は、ブランドショップなど美神事務所時代に令子の荷物持ちとして何度か行った程度である。

あの時は値段なんか見なかったし令子はカード一つで買っていたので、値段なんかは見る機会が無かった。

横島からすると魔鈴がブランド物を好きで買うなら文句などないが、行きたくもないパーティーに行く為のドレスに高額を支払うのは馬鹿馬鹿しいと考えてしまう。


「この程度ならば人付き合いとして必要な出費ですよ」

根本的にザンス王国にいい印象がない横島は辛口な意見だったが、魔鈴としては当然必要な出費だと考えている。

そもそも横島は気付いてないがザンス国王歓迎のパーティーは横島の両親を通しての依頼であり、先にタマモの件で世話になってる以上断れないとの事情もあった。

大樹や百合子の知り合いが誰かは魔鈴も聞いてないが、横島の両親と先方の顔を潰すことだけは出来ない。


「そんなもんっすかね」

「そうですよ。 それに私自身もオカルト業界ではそれなりに名が知られてますしね」

相変わらず横島はパーティーに行きたくないようだったが、魔鈴は魔鈴でオカルト業界では名が知られてるため当然ながらきちんとした服装で行く必要があった。

世間一般的には横島はザンス勲章を授与されたとはいえ無名の元見習いGSであり、パーティーに参加すれば付き添いのはずの魔鈴の方が注目を集めることは明らかなのだ。

まあ魔鈴にはザンス王国との直接の関わりはないが、実は古来より精霊信仰をしているザンス王国とキリスト教以前の秘術を受け継ぐ魔女には精霊の力を借りることがあるなど幾つかの共通点もあり相性はさほど悪くない。

ある程度自分が注目されることを想定して魔鈴は考えていた。



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