ゆく年くる年

そうして鬼道の試練が始まるが、シャドーを出現させる法円に足を踏み入れると鬼道のシャドーが現れる。

それは夜叉丸とうり二つに見えるシャドーであり鬼道自身も初めて見る自身のシャドーに驚きの表情だ。


「夜叉丸みたいっすね」

「式神と式神使いは一心同体と言えるほど強い結び付きがありますからね。 長年一緒に居ると互いに影響を与えても不思議はありませんよ」

そのシャドーは横島から見ても立派なものでかつての自身のシャドーと比べて何とも言えない気持ちになるが、そもそもシャドーとは本人の霊格や霊力などを形にした物なので霊的な繋がりがある式神に影響されても不思議ではないらしい。



「あいつもめげないよな~」

鬼道のシャドーの試練が始まる中、横島はなかなか戻って来ないパピリオ・タマモ・愛子・小鳩が様子を見に来たタイミングで修行見学から脱出していた。

魔鈴とシロはともかく横島は以前見た試練なのでやはり興味がないのだ。

暖かい部屋に戻りごちそうを味わう横島は、ふと真剣な表情だった鬼道と関わった過去を思い出す。


「横島君の知り合いにしては真面目そうな人よね」

「お前な……、まあ真面目っていえば真面目だけど。 ただあいつも苦労してるからな」

パピリオは純粋に横島を迎えに来ただけだろうが、愛子と小鳩は妙神山に修行に来るほどの霊能者に多少興味があったのだろう。

めげないという言葉を使った横島に対し、横島の知り合いにしては真面目そうな人だと愛子は笑っていた。

そんな愛子の言葉に横島は少し面白くなさそうな表情をするが、まあ気にするほどでもないらしくかつて聞いた鬼道の過去を語り始める。


「へ~、あの人も大変だったのね」

横島自身かつて鬼道の過去を聞いた時はその父親を最低だと感じたが、話を聞いているメンバーは全員たいした反応はない。

パピリオやベスパやタマモや老師はあまり興味がないようだし、愛子と小鳩は実はかなり苦労した過去があるのでその程度のことでは驚かないようだ。


「昔からよくある話なのね」

「そうやな。 親が子を売り、子が親を捨てるなんて昔はようあったで」

そして驚きというかよくある話だと平然と語ったのは、ヒャクメと福の神の貧だ。

人の命の軽かった時代を知る神魔や妖怪にとっては、鬼道の過去もよくある話の一つでしかないのかも知れない。


「そんなもんか?」

「ああ、お前さん達は恵まれた時代に生まれたんや」

絵に描いたような不幸な過去を持つと感じた鬼道の過去をよくある話だと冷静に受け止めた面々に逆には横島が驚くが、貧はそんな横島にこの時代は恵まれていると珍しくまともなことを言う。

まあ横島本人の運命が恵まれているかどうかは別にして、幸せになれる可能性の高い時代に生まれたと言いたいのだろう。

元々貧は人の生活に密着した神なだけに、横島や鬼道の現状を一番理解してる神族なのかもしれない。



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