ゆく年くる年

「拙者、誰が来たのか見てくるでござる」

「邪魔になるから止めて……、ってもう居ないし」

基本的に修業者に興味などない横島達は小竜姫達が戻るまで宴会を続けることにするが、唯一シロは強い霊能者に興味があるらしく見に行くと言い出すと横島が止める前に部屋を出て行ってしまう。


「私が様子を見て来ますよ」

相変わらず元気が有り余ってるシロに横島と魔鈴は少し苦笑いを浮かべるが、流石に放置も出来ないので魔鈴がシロを止めるべく後を追っていく。

しかし結局は走って見に行ったシロに追い付けるはずもなく、すでに修業場まで入ってしまったようだ。


「シロちゃん、修業の邪魔をしてはダメで……。 あら、鬼道さん。 お久しぶりです」

魔鈴は慌てて銭湯にそっくりな修業場の脱衣所を抜けてシロにようやく追いつくが、そこに居た修業者はなんと鬼道政樹であった。


「魔鈴さん? 偶然やな。 貴女も修業ですか!?」

修業者が顔見知りの鬼道であったことに魔鈴は当然驚くが、驚いていたのは伝説の修業場である妙神山で魔鈴に偶然出会った鬼道の方が驚き具合は上だろう。

ただ鬼道は偶然にも魔鈴も修業に来たのだと勝手に勘違いしてしまったが。


「いえ、私は小竜姫様に新年のご挨拶に伺ったんですよ。 横島さん共々いろいろお世話になってますから」

「ああ……、なるほど」

勘違いする鬼道に魔鈴は新年の挨拶に来たと答えるが、小竜姫は内心で物は言いようだなと少し可笑しく感じる。

魔鈴は決して嘘は言ってないが人間が神族に挨拶に来るという意味と、魔鈴達が挨拶に来るという意味は微妙に違う。

普通は神族に新年の挨拶に来ると言えば厳格な挨拶を想像するのだろうが、横島達は親戚の家にでも挨拶に行くような感覚でしかない。

嘘はついてないが小竜姫の立場を理解してる魔鈴は、あえて鬼道が誤解するような発言でごまかしていた。

そんな魔鈴に対して鬼道はあっさりと納得するが、そもそも鬼道は小竜姫が横島を弟子だとGS協会に釘を刺した件を知っているし、他にも冥子から小竜姫と一緒に旅行に行った話も聞いていて知っている。

ただ一般的に横島や魔鈴の後ろ盾が小竜姫な件はオカルト業界では割と有名であり、それなりに情報を持ってる人間ならば周知の事実でもあった。

実際閉鎖的なオカルト業界ではしがらみや派閥や人間関係がいろいろと厄介だが、魔鈴は小竜姫の後ろ盾があることとオカルト業界の主流派である六道家や唐巣と友好的な関係を維持しているのでかなり自由に出来ている。

特に昨年は雪之丞を弟子にしてからいろいろ目立ち出した魔鈴が出る杭が打たれるような事態にならなかった理由の一つは、間違いなく小竜姫の後ろ盾があった。

そんな事情を理解してる鬼道からすると魔鈴達が新年に小竜姫に挨拶に来るのは扱く納得がいく話である。


「魔鈴さんの知り合いの人だったんですね」

「彼は霊能者育成を行ってる六道女学院の教師なんですよ」

「ああ、おキヌさんの学校の方でしたか」

一方の小竜姫は久しぶりの修業者が魔鈴達の知り合いだったことで少し表情が和らいでいた。

実は先程シロが現れるまで、鬼道は過剰に緊張というか固くなってしまっていて少し困っていたらしい。



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