ゆく年くる年

次にエミの正月だが、彼女は友人と一緒に南国の島に旅行に行っていた。

クリスマスはピート目当てに唐巣の教会に行ったが、流石に引き際というか節度は理解してるらしく年末年始は行ってない。

実はそもそもの問題としてエミはピートに好意はあるが、現状では必ずしも結婚したいとまで考えてる訳ではなかったりする。

無論将来的に結婚がしたいと考えない訳ではないが、種族の違いを横島みたいに気軽に越えれるほどエミは非常識ではない。

それにピートが種族の壁を障害と考えてるとすれば、エミは殺し屋をしていた過去が障害になっていた。

エミ自身は今まで常に信念を持って生きて来たしそれは殺し屋時代も同じである。

基本的に公安の依頼で法の目をかい潜るどうしようもないクズばかりを呪殺していたが、それを単純に正しいとか間違っていたとかは思ってない。

実際にエミが手を下さねば多くの被害者が生まれるような相手ばかりであったし、それにオカルトが存在するこの世界の闇はどこまでも深く法律の及ばぬ世界は想像以上に広いのだ。

まあエミはそんな過去を受け入れ生きていく覚悟があるが、同時に自分の伴侶にそれを求めていいのかは正直分からないというのが本音だろう。

話を少し飛躍するならば友達以上恋人未満で居る現在のピートとの関係は、エミにとっては理想とも言えて意外と心地好いのは確かだった。

ぶっちゃけエミはまだ二十歳そこそこなので、結婚や将来なんて考えれる歳ではないとも言えるが。

そんな心情もありエミはこの正月は海外でバカンスを楽しんでいる。

流石に令子のように引きこもりではないらしい。



そして冥子の正月だが、彼女は相変わらずマイペースだが意外と忙しい。

基本的に六道家に年始の挨拶に来る人々の相手をせねばならないので、旅行なんて当然行けないし下手に外出も出来ないのだ。

次世代の六道家当主として流石に年始の挨拶くらいはきちんとしなくてはならないし、いろいろ付き合いがあるだけに忙しいようである。


「どうしましょうね」

そんな冥子と同様に忙しい母の冥菜だったが、彼女は一つの問題で悩んでいた。


「あの子はまだまだ子供だから……」

少し甘やかし過ぎたなと後悔もしているが、今はそんなことを気にしてる暇はない。

さて悩みとはあちこちから話が持ち込まれる冥子への縁談であった。

まだ若いとはいえもう成人はしているし、それだけ六道家の跡取りは魅力的なのだろう。

しかし今の冥子がお見合いで結婚しても、上手くいくはずがないのは考えなくても分かる。

いっそ冥子が普通に恋愛でもしてくれたら相手を跡取りとして育てることも可能なのだが、冥子にとっての一番は式神達なのだ。

これは六道家代々の当主も似たようなものなのだが、人間よりも先に式神が友達になってしまうため対人関係に疎い人間が多かった。

まあ細かな問題点は上げるとキリがないが、要は冥子が夫婦になり子供を産むには精神的な未熟さが致命的なのである。

昨年からは老人ホームにボランティアに行ったりと多少の変化はあるが、まだお見合いなんてさせられるほどではないし下手な男と結婚させればろくな未来にならないだろう。

結局冥菜は若さを理由に断ることになるが、娘の結婚の悩みは消えることがなかった。



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