ゆく年くる年

次に令子の正月はと言えば、あえて説明するまでもなく寝正月でありベッドでゴロゴロしていた。

シャンパンやキャビアなど好物を食べては寝ることを繰り返しており、相変わらずの様子である。

母親の美智恵と妹のひのめは今年も正月休みを利用して父親の公彦の元に会いに行ってるが、令子は今年こそは絶対行きたくないと完全拒否した結果であった。


「おキヌちゃんも大変よね」

そんな令子だが心配というか頭にあったのは、ついさっき電話をくれたおキヌのことである。

新年の挨拶にとおキヌが電話をして来たのだが、氷室神社も元旦は忙しいらしく大変だと聞き少し同情していた。

おキヌ本人は楽しい正月だと語っていたが、昨年の年末の様子から考えても大変だろうと思う。

令子自身はおキヌが居ない寂しさは当然感じるが、それでも寂しくてたまらないという訳でもなく一人の時間に慣れてる影響からか結構快適な正月のようだ。

まあおキヌが時期に帰ってくるので、たまには一人もいいなと感じるからこそではあったが。

ちなみに母親に関しては、やはり日本に居なくてホッとしてるのが本音である。

別に嫌いでもないし会いたくない訳でもないが、寝正月なんて送ってると小言を言われるのは目に見えていた。

令子とすれば自分は母親や妻としての役割を半ば放棄してる癖に他人には厳しいとの印象がある。

まあ一言で言えば適度な距離が一番だと最近考え始めていた。



そして氷室家に帰省中のおキヌはといえば、初詣や挨拶に来る来客の相手などで忙しく家業を手伝っている。

普通に氷室神社に初詣に来る人も多いが、氷室家は古い家なので昔からの付き合いや繋がりがある人々もまた多い。

中にはおキヌが帰省するたびにお酒を飲んでは自分の若い頃には忍者の訓練をしたんだと同じ話を何度も自慢げに語る老人なんかもおり、おキヌに遥か過去からの繋がりを感じさせたりもするが。

しかし氷室神社も正月は稼ぎ時であり、おキヌも姉の早苗も睡眠時間を削って手伝っていた。



次に美智恵の居ないオカルトGメンでは、西条と見習い隊員の一人が元旦早々から事務所で待機している。

他には事務員が二人ほど元旦から仕事をしているが、実際には西条達が出動するほどの事件は起きてないので、仕事は相変わらず公共性や緊急性の低い依頼を持ち込む人の対応でしかない。

「出動する事件がないことはいいことですけど、ストレスが新年早々に溜まりそうですね」

「ああいう人のことは忘れたまえ。 相手にするとキリがない」

そんな見習いと西条だが、一人の強欲そうな中年男性が怒り心頭の様子でオカルトGメンの事務所から去ると疲れたような表情をする。

強欲な男性は不動産屋らしくオカルトGメンの常連とも言えるほど何度も訪れては、公共性の低い除霊をオカルトGメンに無料でさせようとする一種のクレーマーだった。

公共性が低い除霊は出来ないと何度説明しても次々と新しい霊障物件の依頼を持ち込む厄介な人であり、オカルトGメンでは有名な人である。

通常のGSならば仕事がないとゆっくり待機出来るが、オカルトGメンの場合は下手に仕事がなくクレーマーの相手をするよりは比較的楽な仕事でもしてる方が気楽であった。

若干苛立つように強欲男性の悪口を口にする見習いに、西条はさっさと忘れるように告げるとクールに自身の仕事に戻っていく。

もちろん社会奉仕が好きな西条も当然強欲な人間は好きにはなれずに内心では散々悪口を並べるが、流石にそれを部下達の前で出すほど疎かではない。

ただ正月早々オカルトGメンは前途多難であった。



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