「そっか…　いろいろ気を使わせちまったなぁ」

少し苦笑いを浮かべる横島は、タマモの頭をポンポンと撫でる

あまり多くは語らないタマモだが、影でいろいろ支えてくれていた事を考えてみれば、知っていても不思議では無いと思う


「大丈夫。　みんなわかってくれるわ」

横島の落ち着いた表情にホッとした様子のタマモ、そしてそんな横島もまたタマモの言葉にホッとする

正直ルシオラの事を知られることに不安が無いと言えば嘘になるが、タマモが言うなら大丈夫な気がしていた



そして場所は変わり個室の雪之丞達はと言えば、全く会話の無いまま時間だけが過ぎている

大声をあげて泣いていたタイガーは泣き止み、かおりと魔理も目を閉じたまま涙は止まっていた


あまりの衝撃的な真実に、かおりと魔理は混乱したままだ

六道女学院では知らされて無かった令子の裏側

完璧だと思い、憧れや崇拝の対象たる令子の人間らしい部分に、二人は自分の価値観を根本から覆されていた


「お前らこのまま帰れ。　正直ここに居る資格が無い」

沈黙を破ったのは雪之丞である
　

特に話すことも無いなら、早くこの場所から帰って欲しかった


雪之丞自身、かおりのことを好きか嫌いかと聞かれれば好きだろう

しかし愛してるかと聞かれればわからない


愛する者の為に命を捨ててまで愛し合った横島とルシオラ

そしてそんな横島を全て受け止めた魔鈴を身近で見ているだけに、どうしても自分とかおりの関係が軽く思えてならない


プライドが高く、常に自分が正しいと自分の価値観を押し付けるかおりに、雪之丞はウンザリしていた事も事実である



そんな雪之丞だが、客観的に見ると雪之丞達の恋愛の方が普通かもしれない

愛や運命などと陳腐な口説き文句では使うが、実際に横島達ほどの恋愛を経験した人間は少ないだろう


基本的に理想と現実は違うし、少なくとも未成年の恋人に求める関係では無い


しかし雪之丞は年齢に合わないほど苦労を重ねて生きてきた

そんな雪之丞にしてみればかおりは世間知らずの子供のようであり、どうしても冷めた視線で見てしまう時がある


今の雪之丞もまさにそんな感じであった

勝手に盛り上がって事情も知らずに横島を悪者にして責め立てた二人を、酷く冷めた視線で見ている



「わかりました……」

かおりは一言だけ告げて席を立ち帰って行く


「タイガー、あたしも帰るよ」

魔理もまたタイガーに一言告げて、かおりに続いて帰っていく


結局二人は魔鈴とも誰とも話すこと無く、逃げるように店を後にする

あの真実を聞いた二人は、魔鈴やその場に居た者達に合わせる顔が無かった


そして帰り道も二人は口を開くことは無く、無言のまま分かれて帰る


この日、かおりは人生で初めての挫折を経験した

そして魔理は、ＧＳと言う仕事の厳しさと真実を初めて知ることになった