ゆく年くる年

結局横島達は普通に初詣に出掛けるが、もちろん歳神に出会ったり干支に絡まれるなんてあるはずがなかった。

そしてそのまま予定通りに横島の両親と魔鈴の孤児院に挨拶に出向くと、時間はあっという間に夕方になってしまう。

帰り際には初売りをしているデパートなんかに寄ってショッピングをすると、街はすっかり日が暮れている。



さて同じ正月の他の人達の様子だが、愛子は何故か小鳩の家に泊まりに来ていた。

普段ならば学校に生徒か教師が誰かしら居るので愛子もさほど暇ではないのだが、流石に正月は誰も学校に来なくて暇なのだ。

エミの事務所で働いて以来、一緒に居る機会が増えた小鳩が年末年始は一緒に過ごさないかと誘ったらしい。


「小鳩ちゃんも正月は暇だったのね」

「私達、貧ちゃんの影響で親戚からは縁を切られてますし、友達も居ませんでしたから」

小鳩は今も元横島が住んでいて、現在は雪之丞が住んでる部屋の隣に母親と貧と三人で住んでいた。

かつて病気がちだった母親も現在はかなり元気になり、近所のスーパーでパートで働いている。

元々母親は体調がよくなかったことも確かだが、貧乏神の影響による精神的なモノがより大きく現在は元気を取り戻していた。

元旦のこの日も母はパートに出ており、愛子と小鳩と貧はテレビを見ながらおしゃべりをしている。

初詣にでも行こうかとの話もしていたが、妖怪の愛子はあまり人混みは苦手だという事情もあり家でのんびりとしていた。

横島達から以前試した机の本体を小さくする為の文珠を幾つか貰ってはいるが、それはそれとして人混みが苦手なのは妖怪として変わらないらしい。


「泣いたらあかん!! 泣いたら負けやぞ小鳩……」

「そう…そうね。 泣いたらひまわりさんに笑われちゃう」

「……二人ともその会話本当に好きよね」

そんな愛子達だがふとしたきっかけで小鳩の過去のお正月の話になると、よほど辛かったのかお決まりの台詞で二人とも盛り上がるが、すでに耳にタコが出来るほど聞き慣れた愛子は何とも言えない反応になる。

昔とは違い生活に余裕が出来たが、妙なノリで盛り上がるのは今だにあるようだった。



一方唐巣の教会では新年の挨拶に来る人々で結構賑わっていた。

近所の人やGSの同業者に唐巣に世話になった人など様々な人が、入れ替わり立ち替わりやってくる。

本当の教会ではないので本格的な礼拝をしに来る人は多くはないが、その分気軽に尋ねて来る人も多い。

最近はGS協会の仕事が忙しい唐巣だが、この日はピートと二人揃って来訪者を出迎え挨拶をしている。

純粋に新年の挨拶や礼拝に来る人も多いが、単純に唐巣に相談事があって来る人も結構いた。

GS協会幹部就任以来教会は実質的にピートに任せていたが、問題がオカルト絡みならばともかくオカルトに関係ない家庭や職場での悩みは、見た目が若いピートには話せない人も少なくない。

ピートも若き神父として評価は確実に得てはいるが、見た目の関係からまだまだ唐巣ほどの信頼度は得てないのが実情だった。

まあ高校を卒業して一年もたたないピートが神父として信頼を得るのが無理なのは当然だが。

ただそれでも若いピートに期待する人は多く、訪れた人々の多くからピートは唐巣の後継者として期待され頑張れと声をかけられていた。



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