ゆく年くる年

和やかな夕食が終わると大樹と百合子は横島達と一緒に酒を飲み始める。

流石にタマモとシロは飲まなかったが、大晦日ということもあり魔鈴が二人にお酒を勧めたのだ。

テレビでは大晦日の特番がいろいろ入っているが、銀一が出てる関係で横島達は紅白歌合戦を見ている。


「あの銀一君が立派になったわね」

大晦日のこの日に紅白に出れる芸能人は多くはない。

近年は断る人も多いが紅白の知名度と肩書きは決して低くはないのだ。

百合子は幼い頃に横島と一緒に悪さばかりしていた銀一を思い出し、少し懐かしそうにテレビを見ていた。


「一週間ほど前に会ったけど、お前にも会いたいって言ってたぞ」

昔を懐かしむ百合子に大樹は銀一に会った際に百合子にも会いたいと言っていたと話をするが、大樹が銀一と会ったとは知らなかった横島は驚いたように大樹を見つめる。


「なんで親父が銀ちゃんに会ったんだ?」

「仕事で会う機会があったんだよ。 来年の夏公開の銀一君が主演する映画のスポンサーにうちの会社がなってな。 他にもCMとかイベントで何度か一緒に仕事したしな」

驚きつつも少し胡散臭げに大樹を見つめる横島だが、大樹は特に気にする訳でもなく仕事だと告げるとその内容を語っていく。

横島としては芸能界と無縁に思える大樹の会社と銀一が関わるのは意外だったが、よくよく考えてみると銀一と大樹は昔から仲が良かった。

アウトドア派である大樹は幼い頃から横島と一緒に親しい友人だった銀一と夏子を山や海によく連れて行ったので、一緒にあちこちに遊びに行ったのだ。

そんな信頼関係があったことから、とんとん拍子に仕事が纏まったらしい。

元々女癖は悪くとも人一倍仕事が出来る大樹なだけに、この程度はお手の物なのだろう。

ほろ酔い加減の大樹は気分がいいのかいろいろと話すが、横島にはやはり遠い世界の出来事のようだった。


「お前はもっと社会勉強しろ」

「わかってるよ」

結局大樹は銀一を若いのによく頑張るとべた褒めする一方で、横島にはもっと社会勉強しろと言い聞かせていく。

そんな父親を横島は少し不愉快そうにはするものの、自分が銀一と比べてダメなのを自覚してる為か渋々わかってると返事をする程度で無言になってしまう。


(親子関係とは難しいですね)

一方魔鈴はそんな大樹と横島のやり取りを見て親子関係の難しさを痛感する。

大樹と横島のやり取りは決して特別なことではないし、友人と息子を比べて勉強しろと言うのはよくあることだろう。

ただそれが横島の人間形成にどれほど影響を与えたかと思うと、魔鈴は複雑な心境を感じずにはいられなかった。

同じように馬鹿騒ぎしても一人は責められてばかりで、一人は責められることが少ない。

実の両親ですらそんな友人と息子を知らず知らずのうちに比べて来たのかと思うと、横島の人間形成の根源が見えた気がした。

人間は決して平等ではない。

そんな世の中の不条理を知るには、些か横島は若すぎたのかも知れないと魔鈴は思う。

そして同時にそんな横島を正しき道へ導く人が当時居ればと思うと、何とも言えない気持ちになっていた。



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