ゆく年くる年

結局その夜は大樹と百合子と一緒の夕食になっていた。

まあ二人が帰国以来夕食を共にする機会は何度かあり、それ自体は珍しい訳ではない。

横島としては二人を歓迎はしないが、かつて大樹が令子を口説いたり百合子と令子が対立して散々な目に遭ったことを思えば、普通に仲良く付き合ってる魔鈴には本当に感謝している。

人のことをとやかく言えた義理ではないが、両親がアクが強いのは横島が一番理解していた。

特に百合子は令子のように真っ向から対立してもダメだし、おキヌのように逃げてもダメなのだ。

元々波瀾万丈な人生を楽しむような両親とは違い、横島は平凡でも穏やかな人生がいいと考える小市民なのである。

ただ魔鈴と百合子の関係に関しては魔鈴の努力と言うよりは百合子の歩み寄りが大きいのだが、横島はその辺りはほとんど気付いてないが。


「ほらもう少し落ち着いて食べなさい。 シロちゃんは女の子なんだから」

さてそんな百合子だったが日常生活においては、強引になることもプレッシャーをかけることもほとんどない。

この日は骨付き肉をガツガツと頬張るシロの食べ方を注意している。

超回復で成長したシロは見た目に反して幼い部分が多く、百合子が横島達の中で一番気にかけているのはシロだった。

見た目と精神年齢や強さと弱さが一番アンバランスなのは確実にシロであり、百合子ならずとも周りの人々が気にかける機会は多い。

百合子の場合は特にシロが女の子らしさがほとんどないことを気にしており、もう少し女の子らしくなって欲しいと思ってるようだ。


「忘れてたでござる。 拙者は立派なレディゆえ気をつけねば」

肉が無くなった骨をガリガリと噛むシロの姿は犬のようであったが、本人は一応レディのつもりらしく百合子に注意されると少し名残惜しそうに骨を皿に戻す。

そんなシロの姿にタマモがぽつりと犬じゃんと呟くとシロは全力で狼でござる!と否定するが、それはいつもの会話である。


「そういえば除霊はどうでした?」

「割と楽な依頼ばっかりだったんで簡単でしたよ。 難しい依頼は優先的に除霊してるんで危険性の低い依頼が残ってたみたいっすね」

一方の横島は魔鈴と今日の除霊について話していたが、特に問題がないようで魔鈴は一安心の様子だ。

魔鈴も別に横島の実力を疑ってる訳ではないが、少し前まで不安定だった精神面を考えると自分の目の届かぬ除霊をさせるのは少し怖いとも思ったようだ。

現在は安定している横島の精神面だが、GSにとって精神の不安定は大敵であり決して楽観視は出来ない。

今回は横島本人がやる気だったので止めなかったが、本音を言えば魔鈴は横島が除霊をすることは時期尚早だったとも考えている。

少し心配症にも見える魔鈴だったが、本来の霊能者は長い年月をかけて肉体と技術と精神を鍛えるためそれが普通であるとも言えた。

横島は知らないが実際才能があっても精神面で潰れる霊能者は現代でも少なくなく、技術同様に重要視されてることでもある。

かつての令子やおキヌは横島を過信したが、魔鈴はあくまでも慎重に慎重を期するつもりのようだった。



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