ゆく年くる年

結局初めて二人だけになったことで微妙に噛み合わない横島と唐巣だが、それはそれとして仕事はしなければならない。

ただ基本的にはそれほど難しい依頼がある訳ではなく、魔鈴が通常受ける仕事より若干難易度が高い程度だった。

恐らく難易度の高い緊急性を要する依頼から片付けており大晦日まで残った依頼なのだろう。


(この年になってもまだ私は……)

さてコミュニケーションでは若干噛み合わない二人だが、除霊に関しては一切問題なかった。

横島も唐巣も互いのスタイルを理解しているので横島が前衛になり唐巣が後衛になったが、唐巣が細かい指示を出さなくても横島はやり過ぎない程度に除霊している。

現状では本業のGSである雪之丞ほど成長してないが、一年以上雪之丞や魔鈴と除霊して来た経験は横島に確実に根付いていた。

霊能に関しては横島は基礎を繰り返し修行する程度だったが、その成果は安定性という意味で結び付いている。

戦闘技術は雪之丞譲りなので相変わらず粗削りだったが、霊能力の安定感は全体にいい影響を与えてるのが唐巣にはよくわかった。

ただそんな横島に心の奥底で嫉妬めいた感情が燻る自分に、唐巣は懐かしさと共に驚きにも似た感情が込み上げる。

かつて若かりし頃の美智恵に出会い感じた圧倒的なまでの才能に嫉妬した頃の自分を思い出し、この年になってもまだ力を追い求めているのかと思うと自分でも驚いたらしい。


「いっちょ上がりっすね。 建物の浄化はどうします? 急いでるなら文珠で済ましますけど」

「今日は除霊だけで構わないよ。 ここは緊急性がある訳じゃないしね」

そんな二人の除霊は何のトラブルもなくさっさと終わっていた。

横島も唐巣も無事に一件の依頼が終わりホッとしているが、だからと言って双方共に喜んでる訳ではない。

数多の命を扱う重さは唐巣ばかりではなく横島も感じている。

正直唐巣はあの横島がよくここまで変わったものだとシミジミと感じるが、同時に自分の人を見る目の無さにはため息しか出なかった。



「しかし普通のGSは年末も忙しいんっすね」

「そうだね。 GSのタイプにもよるが、宗教関係のGSは年末は忙しいだろう。 魔鈴君やエミ君のように純粋に仕事としてGSをやるよりも世間とのしがらみが多いからね」

そのまま休む暇もなく次の依頼現場に移動する横島と唐巣だが、横島はGSが年末も忙しいとは知らなかったらしく驚いている。

かつての令子は年末は早い段階で連休に入っていたし、魔鈴も去年や今年はさほど忙しくなることはなかったのだ。

ただこの件に関しては令子は年末は仕事をする気がないし、魔鈴はそもそも顧客や店の常連の紹介がない新規の依頼は断っている。

加えて年末という時期に忙しくなるのが、どちらかと言えば宗教系GSだという事情があった。

宗教系GSの場合は除霊を一概に仕事と割り切れずに受けなければならない場合も多いらしい。

特に地域住民や檀家や信者などが関わると利益や時期に問わず断れない依頼があるのだから、新年を迎える前に除霊して欲しいとの依頼がこの時期には多いようだった。



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