それぞれの想い

そして店の奥に入った横島は、異界にある魔鈴の自宅のリビングで一人無言のまま考え込んでいた


「はい」

そんな横島にタマモは言葉少なくジュースを渡す


「……なあタマモ。 雪之丞とタイガー大丈夫かな?」

しばらく沈黙が続いた横島とタマモだったが、先に言葉を発したのは横島だった


横島が気にしていたのは雪之丞とタイガーのことである

横島と恋人の間で険悪な感じになった二人を心配していた


「わからないわ。 ただ、あの程度で壊れる関係なら元々薄っぺらい関係なのよ」

複雑な表情で尋ねる横島に、タマモはクールに答える

タマモ自身、あの二人は嫌いなタイプの人間だった

特にプライドが高く、人を簡単に見下すかおりを見て嫌悪感すら感じている


「そっか… まさか喧嘩の原因が俺だったとはな…」

つい苦笑いを浮かべてしまう横島、人に嫌われるのは慣れてるが数少ない友達の二人に迷惑をかけていた事実はショックだった


「元々、おキヌちゃんが悪いわ。 どんな話をすればあそこまで情報が偏るのよ」

根本的原因はおキヌにあるとタマモは言う

二人を友達と思い、横島を好きならしっかり事実を伝えるべきだと思うのだ

何故令子だけを美化して伝えて、横島を悪く伝えるのか理解に苦しむ


「元々、六道女学院じゃあ美神さんは憧れの対象だからな… あの二人も前からそうだったし。 おキヌちゃんのことだから否定も肯定も出来なかったんだろ?」

「そんなことわかってるわ。 おキヌちゃんは優しいけど、それ以上に優柔不断だもの。 流されるだけ… だから今此処に居ないんでしょ」

結局おキヌが二人に何も言えなかったことを、横島とタマモは理解している

優しさと優柔不断では、優柔不断が勝つのがおキヌなのだ

しかも行動力が無いため、迷ったりすると何もしないで流れに身を任せる癖がある

そんなおキヌだからこそ令子の価値観に洗脳されて、横島を令子と同じように扱う原因にもなっていた


「人の関係って難しいな。 俺は別に嫌われるのは慣れてるし構わないけど、周りに迷惑かかるのはちょっとな……」

苦笑いのまま語る横島を見て、散々馬鹿にされ嫌われ続けた横島のトラウマもまた、誤解を生む原因なんだとタマモは思う


「雪之丞達の関係は雪之丞達の問題よ。 神父が仲介してるんだから、少なくとも冷静に話してると思うわ」

タマモはそう話して横島を見つめた


「銀ちゃん達になんて説明するかな。 小竜姫様とパピリオには辞めた事情は話したんだが…」

美神事務所を辞めた理由を説明しなくてはダメかと横島は悩む

少なくとも銀一や小鳩や愛子は心配するだろうし


「それは魔鈴さんが説明してるわ。 エミさんだっけ? あの人に言われてね」

タマモの言葉に驚く横島だが、次の言葉は驚きを更に越えてしまう


「多分全部話してると思うわ。 ルシオラさんのこともね」

「お前……なんで……」

真剣な表情で話すタマモを、横島は信じられないように見つめている


「ゴメン。 私…、知ってたんだ。 横島が苦しむ訳。 知ったのは横島の本心を知った後だけどね」

申し訳なさそうに俯くタマモの姿に、横島はハッとしてしまう


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