ゆく年くる年

それと言うのも令子は美智恵が自分を守る為に努力してることも理解はしてるが、同時に美智恵が自分の可能性を追求したいのも理解していた。

ただ令子を守るだけならば他にいくらでも方法はある訳だし。

結局は美智恵には家庭に入り普通の母親になる気がないだけだと令子は考えている。


(そういう意味だと横島クンのお母さんの方が上よね)

GSとしては母親を尊敬する気持ちは今も変わらないが、家庭人とすればどちらかと言えば百合子の方が上だと令子はシミジミ思う。

まあ女性は必ず家庭に入るべきだとまでは思わないが、それでも幼い子供にはもっと両親共に愛情を注ぐべきだとは考えている。

要は両親共に家庭人としては失格だと考えるのは、令子が自分自身の体験として機能不全の家庭で育ち辛い思いをしたからだろう。

いろいろと考え込む令子だが、美智恵との距離は少しずつ溝が広がっていた。


「ねいちゃ」

「お腹空いたの? そろそろおやつの時間だもんね」

それからもしばらくもぶつぶつと呟くように両親への不満を考える令子だったが、お腹を空かせた様子で見上げるひのめに気付くとおやつにしようと抱き上げて笑顔を見せていた。

反面教師という訳ではないが、令子は見た目以上に母親として向いてるのかもしれない。

ただし母親になる前の段階である男性に関しては相変わらずだったが。

幼い妹には絶対に自分のようになって欲しくないと考える令子は、両親以上に妹に愛情を注いでいく。



同じ頃、ピートと雪之丞は二人で除霊をしていた。

年末のこの時期になると長期休暇に入る除霊事務所が多いため、今年も唐巣の元には依頼が増えている。

昨年はピートと唐巣の二人で対応したが、今年は比較的暇だった雪之丞も助っ人として手伝っていたのだ。


「それにしても依頼の数が多いな」

「この時期は仕事を休むGSも多いですからね。 実は僕なんかは稼ぎ時なんですけど」

この日何件目かの除霊を終えた雪之丞は、残りの除霊予定を見るがまだ五件近く残っている。

必ずしも今日終えなくてはならない訳ではないが、遅れると明日以降に響く可能性が高い。

しかも依頼内容は魔鈴が受けてるような一般的な依頼ばかりではなく、難易度が高い依頼も時折混ざっていた。意外と大変だなと雪之丞は声をかけるが、ブラドー島を支えてるピートにとってはちょうどいい稼ぎ時でもあった。

エミのおかげで現在必要なお金は稼げてはいるが、ピートとしては出来れば今のうちにお金を貯めておきたいとの考えもある。

ピート自身でさえいつまでも人間社会で受け入れられてる保障などないし、現在生きてる人々が亡くなれば将来などどうなるか分かったもんじゃない。

それに予期せぬ天変地異や異常気象や戦争により、食べる物に困る可能性はない訳ではない。

そんな時に一番始めに苦しむのはピート達のような人外なのだから。

自分達の身は自分で守るというある意味では一番自然な形の吸血鬼達にとっては、平和な時間こそが重要なのかもしれない。


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