ゆく年くる年

翌日のクリスマス当日である二十五日は、前日よりは少し余裕がある営業だった。

日本ではイブに重点を置くので、クリスマス当日はクリスマス料理出前の予約が少ないのである。

まあ店の方は相変わらず予約でいっぱいだったが、出前が少ないので全体としても昨日よりは余裕があった。


「横島さん、じゃがいもの皮むきお願いします」

そんな出前の少ないこの日の横島の仕事は、フロアのウエイターと厨房の雑用である。

野菜の皮むきや皿洗いなんかは横島がやっていた。

元々は包丁すら満足に使ったことがない横島だが、流石に春から十ヶ月近く働いていれば最低限の技術は身につけている。

ただ料理でいえばタマモが驚異的な器用さを発揮して魔法料理の習得まで始めているので横島とシロは目立たないが、これは横島とシロが悪い訳ではなくタマモの技術習得スピードが普通ではなかっただけだ。


「俺でもやれば出来るんだな。 俺なんか高校入って一人暮らし始めた時に自炊しようとして挫折したもんな」

いつの間にかきちんと包丁を使えるようになった横島は、ふと思い出したように過去の話を始める。

どうやら横島も高校に入学した春には自炊をしよう試みたことがあったらしい。


「どうして挫折したんですか?」

「何をどうやっていいか全く分からなくって。 時間ばかりかかって面倒になったんっすよ」

横島の一人暮らし当初の自炊の挫折話に魔鈴は少し不思議そうに理由を尋ねるが、慣れない一人暮らしの中でやったこともない料理が上手く出来るはずがなかった。

しかも自炊と言っても安く作るには食材を安く買わなければならないし、保存の仕方なども知らねばならない。

結局横島が安いインスタント食品に行き着くまで、さほど時間はかからなかったのだ。


(典型的な一人暮らしの失敗例ですね。 せめて一人暮らしに慣れるまでは、様子を見たりしてくれる人を近くに置くべきだったのでは?)

横島の一人暮らし当初の話は、典型的な失敗の一例だった。

慣れない一人暮らしで始めから上手くやれないは多いし、せめて近くに頼れる知人でもおいて一人暮らし出来るように手助けは必要だったと魔鈴は思う。


(厳しくして締め上げれば上手くいくとは限りませんからね)

横島の一人暮らし時代の話を魔鈴は時々聞くが、はっきり言えば両親の失敗だと毎回シミジミと感じる。

基本的に横島の両親取り分け母親である百合子は力で自分の価値観を押し付け気味だが、横島は見事にそれに反発して百合子の目論みは失敗しているのだ。

百合子は大樹に対しても似たようやり方で躾をして来たと以前魔鈴に語っていたが、実際大樹の素行は治ってない。


(本当に道を踏み外さないでよかったですよ)

横島の過去を聞くたびに、魔鈴は横島の現在が危ういバランスの上での偶然の結果なのだと実感する。

一歩間違えれば横島の人生は取り返しがつかない道に進んだかもしれないのだ。

横島は割と笑い話として過去を語るが、魔鈴はそんな有り得たかもしれない未来を思うと素直に笑えなかった。



66/100ページ
スキ